HT先生に捧げる本棚 

1冊目

※このシリーズ投稿を始めたきっかけはこちら

 

 

伊藤明彦著

『未来からの遺言ーある被爆者体験の伝記ー』

 

 

生涯で2000人を超える被爆者を訪問し、1000人以上の声を聞きとり録音した著者にとって、長崎で被爆した吉野啓二(仮名)さんの話はその原点となる取材であったに違いない。

 

吉野さんの話に深い感銘を受ける一方で、それとは矛盾する思いをいだいた著者は、ついに吉野さんの出自にまで踏み込むことになっていく。

 

 

この本、手に入れるのがなかなか難しいようです。数年前から気にしていた本なのですが、今年(2025年)4月になって県立の図書館にあることが分かり借りて読んでみました。

 

注意以下ネタバレ注意

 

吉野さんの生々しい証言は当事者しか知り得ない迫真の描写であり、胸が揺さぶられますが、その証言に事実ではないことが含まれることがやがて判明していきます。

吉野さんは幻影を語っていたのか?

 

この吉野さんの録音は証言資料としての価値は低いのかもしれません。

しかし、被爆体験から生まれたのもであることは間違いないものと思われます。

被爆以前の生い立ちと被爆以後の苦しい生活が混ぜ合わさり、増幅されてあの証言となったのかもしれません。いずれにしても吉野さんにとっては全てが現実だったかも...

 

いまだによく感想がまとまりませんが、一読の価値ありの本だと思います。

 

【追記】(2025年5月31日)

私の説明が足りなかったかもしれません。

私はこの吉野さん(仮名)を責める気には到底なれません。

著者の伊藤さんも同じだと思います。

うまく言葉にできないのですが、戦争が人の人生にどれ程の影響をもたらすかという点において、とても貴重な本だと思います。

 

【追記】(2025年8月15日)

この本をドラマ化した8月13日放送のNHK『八月の声を運ぶ男』を観ました。

吉野さん(ドラマでは阿部サダヲさん演じる久野和平さん)の証言を意義あるものと受け止めた制作者の意図がうかがえます。石橋静河さん演じる立花ミヤ子さんのエピソードもうまく取り入れることで、著者である伊藤明彦さんが成し遂げたことへの敬意も感じられました。

 

ドラマと原作とでは受ける印象や衝撃はかなり異なる気がしますが、どちらも観るに(読むに)値するものと私は思いました。

 

(岩波書店下記サイトより)

 

 
 
次回6月の一冊は
J. D. Salinger  The Catcher in the Rye 
村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』です。
原書と翻訳本を並行して読み進めています。