とある女子学生のこと(交差点) | むかし日記

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僕の古い日記です。

僕の入学した大学の学科には女子学生が一人いた。

東京から関西に進学してきた人で,ヒライさんと言った。
同級生の話によると,もう一人,休学している女子がいるとの話だった。
彼女は45人くらいいるクラスで最大な派閥,つまりは,大阪出身者の派閥の中心にいた。

ある日,講義が終わり,いつものように下宿のある箕面に向かって心臓破りの急な坂道を自転車を押しながら歩いていた。
すると,坂道の後ろから僕を呼ぶ声がした。
振り返ると,ヒライさんであった。
彼女も同じ箕面方面に住んでいるようだった。
彼女は饒舌な感じで,僕に好きな音楽とか,趣味の話を聞いてきた。
僕は,
「ナガブチツヨシやサダマサシとかのフォークソングが好きだ」
と言うと,
「高校の頃,先輩にナガブチツヨシのCDを借りたことがあって,あ~いしてるよ おほほほっていうのをよく聞いてたよ」
と言った。
「あ~ジダイハボクラニアメヲフラシテルのCDやね」
と僕は答えた。
「漫画はブッダとかアドルフニツグとかテヅカオサムの作品が好きだ」
と言うと,
「ブッダは先輩から教養として読んでおいた方がいいって言われて,読んだよ」
と彼女は語った。
僕は彼女との会話に少し息苦しさを覚えた。
この人は何かと言えば,先輩からということを口にするんだなという,自分の好みってもんがないのかねっていう感じ。
高校の頃,先輩はおろか,同級生とも断絶していた僕には,かなり彼女と相容れないものであった。
「雨の日は,くせ毛なので,髪がゴワゴワしてセットが大変なのよね」
と僕がまるで興味のない話をひとり言のように彼女は話した。
そして,彼女は自分のアパートがあそこだと場所を教えてくれた。
どうやら,女子学生のみのアパートらしい。
僕は特に興味もなかったので,
「へぇ~」
と答えるのみだった。

数日して,研究室にいた僕のところにヒライさんはやってきた。
彼女は僕がいつ頃,家に帰るのかを聞いてきた。
ちょうど帰るところだった僕は,また彼女といっしょに急な坂道を自転車を押しながら登った。
どうやら,不審な男が彼女の後をつけているような気がするので,これからできれば一緒に帰って欲しいというようなことを彼女は言った。
僕はまた彼女といっしょに下宿に帰った。
今度はほとんど講義の話だった。
別れ際に,
「よかったら,ナガブチのCD聞いてみる?」
と僕は言った。
彼女は貸して欲しいと答えた。
次の日,ナガブチツヨシのジダイハボクラニアメヲフラシテルのCDを彼女に貸した。

その後も,彼女は僕の研究室にいっしょに帰らないかと尋ねてきた。
彼女は悪い人ではないが,やはり相容れないものがあると感じていたので,
「研究があるので,いつ帰るかその日にならないとわからないし・・・」
と言葉を濁した。
彼女は,
「そうだよね」
と僕の言葉に納得したようであった。
以降,彼女が僕の研究室に尋ねてくることはなかった。

それから,数週間が過ぎても,彼女に貸したCDはなかなか僕のもとに返ってこなかった。
CDなんて,MDにダビングするのは30分もかからないのに,なかなかCDを返さない彼女に苛立ちを覚えた。
3か月くらいたった頃,研究室の僕の机の上に貸したCDといっしょにお菓子が置かれていた。

僕は中学の頃,クラスの女子にアダチミツルのミユキやタッチの単行本を貸して,なかなか返してくれなかったことが思い出された。
やっぱり,女子に漫画やCDを貸すもんじゃないなという思いを強くしたのだった。