公開収録のこと(交差点) | むかし日記

むかし日記

僕の古い日記です。

高校の頃,寮に入っていた。

帰宅部だった僕は,よくラジオでリクエスト番組を聞いていた。

NHK-FMの夕べのひとときもそんな番組の一つだった。

 

秋頃に,夕べのひとときの公開収録があった。
往復はがきで申し込み,当選すると参加できるというものだった。
僕は,勉強の忙しさもあり,うっかりはがきを出し忘れていた。
すると,隣の部屋のサカが,
「公開放送に当たったんやけど,日曜日行けへんか?」
と誘ってくれた。
彼もリクエスト番組を聞いていて,僕のリクエストが放送されていたのを知っていたため,気をまわしてくれたんだと思った。

日曜日に二人で電車に乗って,1時間ほどかけて収録会場である体育館に向かった。
会場の入場は整理番号順で,自由席だった。

僕はサカと並んで着席すると,DJのナンデちゃんを探した。
舞台の上でひときわきらびやかな衣装の女の子を見つけた。
あれがナンデちゃんかな?と思った。

公開収録の番組が始まって,その女の子が自己紹介をした。

やはり彼女がナンデちゃんであった。

DJの声から想像する女の子とは違って,少し大人びた女性がそこにいた。
公開収録には生稲晃子がゲストとして出演していたが,僕はそちらには目もくれず,ナンデちゃんを見つめていた。
クイズ大会,ビンゴゲーム,生稲晃子ミニライブと番組は進み,公開収録が終了した。

番組の収録が終わると,ナンデちゃんの周りには彼女の学校の友人らしい女の子や,リュックサックをさげた,いかにもリスナーらしき男が10人くらい集まっていた。
僕がナンデちゃんを見つめていると,サカが,
「話にいくか?ちょっとぐらいやったら待っといちゃるけど」
と言った。
「いや,このまま帰るよ」
と小さく答えた。
僕は短パンに洗濯したしわくちゃのTシャツ姿であった。
そんな恰好で,彼女の前に行く気にはなれなかった。
つまりは気後れしてしまったのだ。
彼女の姿を見れただけでよかったんだと自分に言い聞かせた。

僕らを乗せたローカル列車は,暗闇の中を走り抜けていった。