僕は家の近くの中学に通っていた。
中学1年生の頃,すこぶるテストの成績が悪かった。
そのため,家庭教師を付けられることになった。
せめて,商業高校にでも入学できるようにと,そろばん教室にも通わされた。
家庭教師は近くに住む,神戸の六甲にある大学の法学部を卒業した司法浪人の男性だった。
初めて見た家庭教師の人は少し怖そうに見えた。
そして,どれくらい数学や英語を理解しているか,ひとつひとつ確認された。
恥ずかしい話,2桁の掛け算や小数点のある掛け算などが苦手で,Cameraのようにアルファベットが6文字もあるような長い英単語は全く覚えられていなかった。
家庭教師から,言われた一言は,
「これからは,数学以外の勉強はいっさいしなくていい」
ということであった。
翌週から家庭教師による猛烈な数学のスパルタ教育が始まった。
2桁の掛け算などは,中学以上でやらないからできるようになる必要はないとのことだった。
とにかく,家庭教師から膨大な宿題が出た。
おもに,Z会の問題集と「高校への数学」という月刊誌の問題であった。
家庭教師に言われた宿題をこなすため,授業中も問題集に取り組んだ。
そういう状態が半年も続くと,数学のテストの点が急上昇した。
計算スピードが速くなったので,60分の試験で15分で全問回答できるようになった。
すると,見直しの時間がたっぷりあるので,間違いも訂正することができるわけだ。
ある程度,数学のテストの点数が上がると,今度はZ会の英文法の試験問題もやらされた。
そのとき,初めて,暗記は繰り返し書くことによって覚えられることを学んだ。
見ているだけでは覚えられない,英文も,何度も繰り返し書くことによって,構文まるごと暗記できることがわかった。
すると,英語のテストの点も急上昇した。
暗記の手法を社会や理科にも適用すると,それらのテストの点も伸びた。
数学はスパルタ教育のおかげで,学校で習うことを,とうに過ぎて,中2の頃には中3の数学までほぼ終えていた。
そして,中3になった頃には,高校の数学の問題をやらされていた。
中3の冬に,親から工業系の5年制の高校を受験することを告げられた。
大企業への就職がいいというのがその理由であった。
自宅からかなり遠い所にある学校であるため,寮に入ることになるようであった。
僕は特に行きたい学校の希望がなく,親が勧めるその高校に行くもんなんだという感覚だった。
家庭教師はさっそく,大阪でその高校の過去の試験問題集を買ってきた。
理科で,中学では習わないイオン化傾向の問題が出題されていると言っていた。
そして,その高校の入試に備えて,過去の試験問題を繰り返す日々が始まった。