尾川永次のブログ -360ページ目

尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています




会いたくて もう一度 会いたくて
遠い空眺めては 悲しくて せつなくて

貴方はずっとそのままで 私は道の彼方に
頬寄せた冷たさに 風がささやきかける
音の無い世界 貴方は私を見つめて
小さくなっていく ぬくもりは遠い

灰色の心 空に消えて行く
貴方はどこにいるの 流れる雲に聞いた
一輪の花が揺れて 冷たい雨に濡れて
そばにいて ここに来て 抱きしめて

季節がうつろい 過ぎても
貴方はずっとそのままで
時は流れ 夜の闇が訪れても
貴方はずっとそのままで

夜が明けて 朝日の中で
見つめあえたら 素敵なのに
角を曲がれば こんにちは
振り向けば  さようなら

聞きたくて もう一度 聞きたくて
一人帰り道 涙流れて 苦しくて

心閉ざして 耳を塞いで
貴方はきっと 悲しいままで
手をのばして 歩き出せば
貴方の笑顔 浮かんで消えた
   
待っていて 歩いて行くから 
貴方のそばに 歩いて行くから

もう少しだけ 待っていて   
愛していると 必ずゆうから 


           yukosan ni sasagu

                  - 魔法師ネイザン -

ジャンとシーラスの眼に周囲二キロ程の粛然とした湖とそこに佇む建物が見えて来
 た。二人の目的地、魔法師ネイザンの館である。
二人は深い森に囲まれた湖面からの
少しひんやりとした空気の流れを感じながら湖
 に沿った道を館に向って歩いて行く。湖には薄絹のベールのような霧が掛かり、
 静寂の中で聞こえるのはかすかな虫の音と二人の歩く音。

やがて二人は館の前の広場に出た。
真近に見るネイザンの館はレンガ造りの小さい城といった外観で、かなりの風雪に
 耐えたと思われる壁には蔦がからまり一見すると廃墟と見紛うほどだ。

館に着いたシーラスが門を叩くと、中からしゃがれた男の声が聞こえて来た。
「どなた様ですか?」
「シーラスです」
錠を外す音に続き、きしむ音をたてながら門が開くとランプの灯りを背に細身でいか
 にも温和そうな老人が二人を迎い入れた。
「ご苦労様です。法師は施術部屋でお待ちになっております」

迎い入れた老人の名はムスダム。歳は七十になろうとしていた。身長は百七十セン
 チ程で、少し薄くなった髪と顔に刻まれた多くのしわがネイザンの従者としての五十
 年の月日を物語っていた。

「じっちゃん元気?」
そう言いながらシーラスの後から館に入って来たジャンを見てムスダムが言った。
「いましがた、戦いましたね。それもかなり苦戦なされたようで、相手はソイルですか・・
 とにかくご無事でなによりです」
目の前で見ていた様な指摘にジャンは驚いた。
「な、なんでそんなことが・・。分った!森の中を歩いて来たから当てずっぽで言って
 るんだろ!」
ムスダムは軽く微笑んだ。
「いいえ、洋服の汚れと傷を見ればわかります。相手を知り己を知ることが剣士の第
 一歩であり、自分の身を守る全てですよ」
「じゃあ、攻撃を全部かわしてたら何もわかんないってことか?」
「相手を知るには動きや言葉など探せばいくらでもありますよ。現に貴方からソイルの
 体液の臭いがします。剣の柄に付いた付着物は体液のようですので斬り倒したこと
 がわかりますし、乾いた状態からすると既に一時間ほど経っているようですね」
「やっぱ、じっちゃんすげーな」感心しているジャンにムスダムが。
「後で厨房にお寄り下され。ムスダム特製の薬草茶をお作りしておきます」
それを聞いたジャンの顔が曇った。
「いや、大丈夫だって。シーラスが治療してくれたし」
「治療魔法で傷は治っても古い毒に対しての解毒は完全ではありません。ま、私が困
 るわけではないですから、無理にとは申しません。申しませんがあの時ムスダムの
 忠告を聞いておれば良かったなどと夢枕に立って言わんでくだされ。そう言いながら
 ムスダムは無表情な顔でジャンの横を通り抜けた。
「あれ、苦いんだよなー・・」苦虫を潰したような顔をしたジャンの肩をシーラスが叩き
 ながら言った。
「諦めた方がいいな。ジャンの負け」
「わかったよ。飲むよ飲む、頂きます!」
その一言でムスダムは振り向くと満面の笑みを浮かべ「どうぞ、こちらへ」そう言なが
 ら階段を上がって行く。
「はい」と返事をしたシーラスに続き憤懣やるかたない顔のジャンもランプが灯る階段
 を重い足取りで上って行く。
既にジャンの口の中に薬草茶の苦味が蘇り何ともいえない気分になっていた。
・・今日はついてない日だな・・そんな思いがジャンの頭をよぎっていた。

三人が二階にある施術部屋の前に着くと、ムスダムは中の様子を伺う様にドアに顔を
 近付けノックをした。「シーラス導師がお見えになりました」そう言うとムスダムは
 返事を待たずにそっとドアを開け二人を部屋に入れた。

施術部屋は二十畳程の大きさで一方の壁には祭壇があり、後の壁一面に据えられた
 棚には書物や薬草などの入った大小のビンが所狭しと並んでいる。

二人が中に入るとネイザンが薄茶色のローブを身にまとい、蝋燭の灯る祭壇に置か
 れた直系二十センチほどのぼんやりと光るクリスタルに手をかざして立っていた。
その他に祭壇の前の床に一人座っていたが薄暗い中で頭から白いローブを被って
 いて素性を計り知ることは出来なかった。
「ジャン、そこに」
シーラスに促されてジャンは先に来ていた人物の隣に胡坐座で座り、シーラスは
 ネイザンから少し離れた所に立ってネイザンが終わるのを待った。

しばらくしてネイザンが、かざしていた手を降ろし振り向いた時、シーラスが声を
 掛けた。「法師。ジャン・バスタードを連れて参りました」
「ご苦労であったな」そう言いながらネイザンは祭壇の横にある細かい彫刻が彫り
 こまれた古い木製の椅子にゆっくりと腰掛けた。

魔法師バルザス・ネイザン、八十二才。身長は百八十センチ程で、痩せて彫りの深い
 顔に白髪を肩まで伸ばし、長い髭を蓄えたその佇まいは老いて尚、鋭い眼光と共に
 数少ない最高位の魔法師としての威厳に満ちていた。

ネイザンが話し始めた・・
「南の国サージャと隣国のファマスとの間で起きた戦争で生じた混乱に乗じて
 クリスタルゲートのクリスタルがかつての同士、魔法師エルバインに奪われた。これ
 によって三千年の間魔界を封印してきた結界が消滅し、開き始めた魔道から這い
 出て来た魔物どもが虫や獣に憑依を始めた事は知っておろう。エルバインはこの
 魔物どもを人間に憑依させ兵士として操り、世界を支配せんと目論んでおるのだ。
 だが奴はもっと恐ろしい事を画策しておったのだ」
声が次第に大きくなっていくと共に蝋燭に浮かび上がったネイザンの顔は怒りに
 満ちていた。
「奴の配下とおぼしき輩がパンデューラを探して村々を襲撃しいるとの報告が入った」
「パンデューラって何だ?」つい口に出したジャンの顔をネイザンはじろりと見た。
「あ、いや、別に・・」ネイザンの鬼気迫る形相にジャンは慌てた。
「パンデューラは呪術師ガルザーグが作った悪魔のクリスタルのことでありこのクリス
 タルから生み出されるのが三千年前に世界を破滅寸前まで追い込んだゾーマなの
 だ。何としてもゾーマ復活を阻止しなくてはならんのだ!」

ダンッ!!ネイザンが握り締めた拳を肘掛に叩きつけると部屋は重苦しい空気に包
 まれた。

その様子を見て一番驚いていたのはシーラスだった。
これほど冷静さを逸したネイザンの姿を今まで見たことがなかったからだ。
そして、自体はそこまで切迫しているのだと・・。

ネイザンは高揚した自分を落着かせようとゆっくり息を吐きながら背もたれに身体を
 預け、肩の力を抜いた。
「ゲートと魔物について話しておこうかの」
そう言ってネイザンは再び話始めた・・
「心が生み出す強い思いが現世を漂う、これが残留思念体であり俗に霊体などと言わ
 れるものだ。その中で邪悪な感情で作られた思念体が悪霊や悪魔などの魔物にな
 る。魔物は波動があった生き物に憑依して害をもたらすが、それは大した事ではな
 い、形の無い魔物のままであればな。しかし三千年の昔、呪術師ガルザーグが宙に
 漂う魔物などの思念体をクリスタルに集め実体化する魔法を編み出しゾーマと呼ば
 れる兵士を作った、慈悲も情けも無いおぞましい怪物を・・。
 ガルザーグはゾーマを従え燎原の火のように全てを支配していった。
 そして世界は闇に包まれ、絶望の波に呑まれて行った・・
 だが絶望の中から立ち上がった者達がいた。
 それが魔法師ウィッシュバーンとエルフの魔法使いラーマンだ。
 二人は邪悪な思念体を封じ込める強力な結界を張り、全ての魔物の思念体を封印
 した。それがクリスタルゲートなのだ。だから一刻も早くクリスタルを取り返しゲートを
 封印しなければならないのだが直接魔物を倒す為には魔道具として作られた剣と
 クリスタルの力が必要なのだ。その剣を持つ者達が魔法騎士団であり、ジャン、
 お前に授けたドラゴンテイルもその中の一つなのだ」
「これがか・・」ジャンには錆付いた剣を思うとネイザンの言葉をそのまま信じることが
 出来ない気がした。
「先週、エルバインの兵が国境の町バルザに向っているとの報告を受け我が国から
 魔法騎士団がバルザに向った。奴との戦いがはじまったのだ」

・・バルザ・・
ネイザンの話にジャンの顔つきが変ったが暗さのせいもあり誰も気付い
 てはいなかった。

「ところでジャン、ドラゴンテイルはどうだ?」
「あ、あー。重たい上に刃こぼれと錆のせいで良く切れないし、これが本当に伝説の
 魔法の剣なのか怪しいけどな」
「はっはっはっ、怪しいか。で、その他の修行はやっておったか?」
ネイザンは先程とは別人に思えるほど穏やかな顔をしている。
「言われたことは全てやったけど剣の腕前が上がったようには感じないな」
「ジャンよ、腕力を付けることが剣の修行ではないぞ」
「そんなもんですかね」少しいぶかしげな顔をしているジャンを尻目にネイザンは
 続けた。
「それでは剣に聞いてみるかのう・・シーラス・・ドラゴンテイルを」
「はい」
歩み寄って来たシーラスにジャンはドラゴンテイルを差し出しながら耳打ちした・・「剣
 に聞くなんて、年のせいで呆けが来たのか」
ガンッ!乾いた打撃音の後、ネイザンに剣を渡しているシーラスの足元でジャンが
 後頭部を押さえてうずくまった。
シーラスが振り向き様に剣の鞘でジャンの頭をはたいたからだ。

剣を受け取ったネイザンはドラゴンテイル鞘から抜くと軽く腕を伸ばし眼の高さに
 かざすと、しばらくじっと見つめてからジャンに言った。
「力任せに振り回してはいかんな」
・・えっ!?・・ネイザンの言葉にジャンはエルフに同じことを言われたのを思い出し
 た。・・ちぇ、またか・・「そりゃ刃こぼれとか見れば、想像はつくよな・・・」腕組みを
 して不機嫌そうにジャンが答えた。
「はっはっはっ」ネイザンは軽く笑いながら振り向いてシーラスに尋ねた。
「どうかな?」
「はい、問題はないかと」
「ジャン、ここに来て跪きなさい」
「あ、はい・・」
ジャンはネイザンの前に跪いた。
ネイザンはジャンに剣を渡し、振り向くと祭壇の下に置かれていた木箱を取り出した。
箱は縦横三十センチ程の大きさで細かな彫刻が施されている。
蓋を開けると艶やかな青い絹織物が敷き詰められていて、その中に収まっている拳
 ほどのクリスタルを取り出しジャンに差し出しながら言った。
「このクリスタルを剣の柄の所にはめ込みなさい」
「はめ込むって・・ああ、ここか。前からおっきな穴が開いてて不思議に思ってたん
 だよな」ジャンはドラゴンテイルの柄に空いている丸い穴にクリスタルをはめ込んで
 剣を構えたが何の変化も無かった。
「何だ。何か起きるのかと思ったのに・・」
「慌てるでない、これから私の言う通りに繰り返すのだぞ」
「分った」
「我が名はジャン・バスタード、汝の主なり。我が意思と共に我が力となるを望む。
  我にその資格あれば汝の御霊を持って答えよ、とな」
そう言ってネイザンはジャンを見つめた。
「言えばいいんだな」ジャンは緊張した表情の中、両手で剣をかざし、呪文を唱え始め
 る。「わ、我が名はジャン・バスタード、汝の主なり。我が意思と共に・・我が・・我が・
 ・」ジャンの記憶力ではこの辺が限界だった・・。
そのまま我がを繰り返しているジャンにシーラスが近寄り残りの呪文を耳打ちした。
「我が力となるを望む。我にその資格あれば汝の御霊を持って答える前にシーラス
 さんありがとうを忘れずに」
そう言って微笑むシーラスをじろりと見てジャンが小声で言った。「貸しだからな・・」
ジャンは一つ深呼吸をしてから改めて呪文を唱えた。
「我が名はジャン・バスタード、汝の主なり。我が意思と共に我が力となるを望む。
  我にその資格ある時は汝の御霊を持って答えよ」
ジャンが呪文を言い終えた時、剣から何かが手に伝わって来るのを感じた。
・・な、何だ!?この感じは・・。次第に手から腕へとしびれるような感覚が伝わって
 来て気持ちが穏やかになって行くと共に何かに吸い込まれる様にジャンの眼が自然
 と閉じて行く。
やがて剣にはめ込んだクリスタルから放たれた青白い淡い光が剣全体を包んだ時、
  ジャンは水の中に漂っているような心地良さの中に居た。
少しして剣を包んでいた光が消えて腕の感覚が戻るとドラゴンテイルは先程とは様相
 が激変していた。
ドラゴンテイルから錆も刃こぼれも消え、今研ぎ出したかの様に蝋燭の灯りを移し込
 んで眩いばかりに光を放っていた。
「す、すげー・・」
驚嘆して剣を見つめているジャンにネイザンが話し掛けた。
「魔法具であるその剣と、パワークリスタルが融合した姿こそが本来の姿、魔法剣と
 呼ばれている真の姿なのだ。契約の儀を通してお前を主と認め目覚めたのだ」
・・シーラスが言ってたのはこの事だったのか・・ジャンの中でやっと合点がいった。
「ドラゴンテイルは成長する魔道具、主と共に剣も強くなる」
それを聞いてジャンはネイザンに尋ねた。
「どうすれば強くなるんだ?」
「修行を続け、たえず剣と一つになることを心掛けなさい。そしてドラゴンテイルは勝つ
 為に作られた剣ではない、守る為に作られた剣だという事。けっして怒りの波動に
 身を委ねるでないぞ」
・・勝つことと守ることで、どう戦い方が違うんだ?・・ジャンにはネイザンの言っている
 意味が理解出来なかったが。「ま、いいか。直ぐにでもエルバインて野郎をぶっ飛ば
 してクリスタルを取り返してやるぜ」
その時ネイザンがジャンに怒鳴った。
「ならん!!まだエルバインやゾーマと戦ってはならぬ。今のお前では奴等は倒
 せぬ。修行を続けレベルを上げる事が先だ」

ネイザンのけんまくにジャンは気後れした。
「あ、ああ、分かったよ・・」
「明日からはここで修行をする。すでに魔道具の一つドラゴンウイングを第二段階に
 まで高めたソフィーと共に第三段階にまで高めるのだ」
「二とか三てどうなるんだ?」
「第二段階は剣の速度が数十倍に上がり、第三段階になれば魔物を浄化する力が与
 えられるのだが、それとてゾーマは倒すことができんのじゃ。だが
パンデューラ
 エルバインが手に入れたとしても直ぐにはゾーマは復活しない。ゾーマを作るには
 強力かつ大量の魔物の思念体が必要だからだ」
「その前にゲートを封印すればいいわけだ」
「そういうことじゃ。今はとにかく力を上げる事が先決なのだ。よいな」
「ああ」
「ソフィー来なさい」
「はい」
・・え!?この声は、まさか!・・聞き覚えのあるどころではない、ジャンにとって忘れ
 たくても忘れられない声だ。
被っていたローブをとり、立ち上がった人物は紛れも無いあのエルフだった。
「明日から共に修行をするエルフ族のソフィー皇女だ。ソフィーも魔法具と契約を交わ
 した戦士なのだ。三人で力を合わせレベルアップに全力を上げるのだぞ」
「はい」
シーラスとソフィーは力強く返事をしたが、ジャンは一人悶々としていた。
・・さっきはありがとう、よろしくな・・何てさらっと言えるわけがないし・・さりとてこのまま
 負い目を背負ったまま一緒に修行をするのもしゃくだし・・さっきは調子が悪かった 
 んだ何て言って、言い訳がましい男に思われるのもいやだし・・第二段階だなんて
 凄いね、などと口 が裂けても言えないし・・だいたいあの女の言い方にかわいげが
 ないからいけないのだ・・そうだよな、あの言い方に問題があるわけで・・問題はそこ
 だな・・。俺はそんなに悪くないよな。
ジャンの中で問題は片付いたようである。
「ジャン・・ジャン・・一人で何ぶつぶつ言ってるんだ。帰るぞ」
「お、おう」ジャンは慌て剣を鞘に入れてシーラスと並んだ。
「法師、我々はこれで失礼して、明日から修行に励みます」
「頼んだぞ」
一礼したシーラスとジャンが部屋から出て行くとネイザンは椅子に深く腰掛けて一つ
 ため息をつくと部屋の奥をぼんやりと見つめた。
ネイザンの顔は心中の複雑さを物語っていた。このままだと力の足りない若者までも
 戦場に出さねばならないかも知れないと。
「法師」
ネイザンの横にいたソフィーが話し掛けた。
「なんだね、ソフィー」
「ドラゴンテイルのレベルが簡単に上がるとは思えないのですが」
「わしは、そなたの持つドラゴンウィングとジャンのドラゴンテイル、そしてシーラスの
 魔法が成功の鍵だと思っておる。ネイザンの兵の中にゲートから持ち去ったクリス
 タルを使った魔法剣を持つ物達がいるはずだ。これに勝つ力をお前達が持って
 から出陣してほしいのだ」
「今度の騎士団の遠征が失敗に終わったら私も直ぐに行かなければなりません。
 それには私自身間に合わないでしょう。まして今日契約の儀を済ませたばかりの
 人間では到底不可能です。死にに行くようなものです」
「確かにそなたの言うとおり、時間が足りないだ。だが、ジャンがドラゴンテイルを手に
 してからまだ一ヶ月だとしたら・・」
ソフィーが驚いた顔でネイザンを見た。
「それは本当なのですか?私が五ヶ月掛かったことを・・たった一ヶ月で・・」
信じられないことだった。魔法具との契約はクリスタルに選ばれた者だけであり、選ば
 れるには並々ならぬ修行が必要なのだ。
 
「既にシーラスは魔法師の力を持った。きっかけがあればジャンも第二段階や第三段
 階に短期間に行けるかもしれない。僅かだがそんな希望を持っておるのだよ」
ネイザンは立ち上がると窓際に歩み寄り、窓の外を見ながら悲しげな表情をして言っ
 た。
「魔法騎士団がゲートの封印に失敗した時は魔法具を持っているお前達三人に未来
 を託さねばならない時が来る・・それまでに少しでも強くなってほしいのだ」
「分りました法師。出来る限りやってみます」
「頼むぞ」
ソフィーもネイザンに歩み寄ると窓の外を身を見た。
シーラスが灯すクリスタルの灯りが暗い夜の森に消えて行くのを二人は黙ったまま
 いつまでも見ていた・・・。
小さな光が未来に繋がる事を信じて。

だが次の朝、事態はネイザンが思ってもいない方向に進んだ。

この話は私が中学の修学旅行で京都に行った時の出来事です。
ただこの話は今までのような、明解な幽霊のお話ではありません。
実は私も何なのか全然分からないんですがとにかく怖かった記憶だけはあります。

私達の宿泊先は京都の繁華街にある旅館でした。
うちのクラスは大部屋で全員が同じ部屋で寝泊りしていました。
その部屋はニ皆にあったのですが、アーケードのある商店街に面していて、ベランダ
 に出ると商店街の通りが一望出来ました。

たしか、最後の日だったと思います。
夜中の二時近くになりさすがに半分ほどの友達が睡魔に負けて寝始めた時でした。
商店街も静まりかえっていて、私も少しうつらうつらし始めた時です。
遥か彼方から笛のような音が聞こえて来たのです。

それはどんな音かといいますと、最近の人は多分見たことも聞いたこともないと思い
 ますが、キセル売りとゆう職業がありまして。サイドカー付きの自転車にショーケース
 と小型のボイラーが付いています。ボイラーはキセルの修理に使います。蒸気で
 キセルの曲がりとかを直すのです。その蒸気がショーケースの屋根から出ていて
 そこに付いている笛を「ピー」と鳴らすのです。その音はキセル屋が来ましたよの
 合図なんですがこの音にそっくりでした。

その音を静かな通りに響かせながらとても大きい音でどんどん近付いて来るのです。
部屋の中で何人かが言い出しました。「何の音だよ、あれは」
どんどん近付いて来ます。聞こえて来るのはその音だけです。他の音はいっさい
 聞こえて来ません。歩く音も、話し声も・・。そしてどんどん近付いて来ます。
歩く程度の速さで、本当に大きな音でした。
やがて私達の前に来るとその音は動くのを止めたのです。
音だけが聞こえてきます、耳を塞ぎたくなるよう音でした。
そして、その音は動き出しました。元の方に戻って行きます。ゆっくりと・・。
ちなみに此処まで一度も音は途切れていません。鳴りっぱなしです。
どんどん小さいくなりやがて聞こえなくなりなした。

ところが突然商店街のシャッターが開き出したのです。殆どの店のシャッターが
 開いたと思います。やがて人が出てきてざわざわ話はじめました。
十五分位話していたと思います。やがてシャッターの閉まる音と共に人々は店の中に
 帰って行き、通りに静寂が戻りました。

それから十分位でしょうか、また・・また聞こえ始めたのです・・笛の音が・・
遠くから少しづつ、少しづつ近付いて来ました・・・恐怖は最高潮です。
部屋の中の誰かが言いました。「誰か見て来いよ」
誰もその声に返答しなかったですね。勿論私もですが怖くて固まってました。

先程と同じです、どんどん近付いて来て、私達の部屋の前辺りで止まり、やがて元
 来た方へと戻って行きました。そして聞こえなくなった時、また商店街のシャッターが
 開いて人が出て来ました。何で音が目の前に来た時に出てこないのだろう?
そんな疑問も沸きましたが、本当に怖くて私には見る勇気は無かったです。

やがて人々は帰って行き、再び商店街は静寂に包まれました。
そしてその音は二度と現れませんでした。
たったこれだけですが本当に怖い夜でした。
多分誰かの悪戯なのでしょうが本当に怖かったです。

誰も音の正体は見ていません、謎のままで終わってしまいました。
そして疑問がいくつか残りました。
1、音は生の音に聞こえました。スピーカーの音では無いです。
2、だとしたらなぜ音が途切れなかったのか?何の音なのか?
3、その音以外になぜ他の音がしないのか?
4、商店街の人たちの対応が変だ。
5、音の指向性の問題ですが、向きを変えた形跡がない。音に動きを感じ無かった
  のです。多分移動していただけです。
6、何の為にそんな事を誰がしたのか?

以上が修学旅行で体験した恐怖の一夜でした。
もし京都の方でこの音の原因が分る人がおられましたらメール下さいね。
昭和45~6年の頃の話です。
お待ちしております。