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一目で不慣れだと分かる動きで屋台を引く男の名は鬼島謙三。
六十八歳になる。
警察一筋に四十年。寸暇を惜しまず事件解決に心血を注ぎ
一目置かれる存在だったが、半面仕事優先で家庭は妻任せ。
寡黙と言えば聞こえはいいが、家族とのコミュニケーションが取れない
典型的な昭和の仕事人間だった。
退職後は同僚からの誘いで警備会社で夜警の仕事に就いた。もっとも
出来そうな仕事と言えば、清掃関連か警備員と思っていたので二つ返事で
頭を下げた。
犯罪者とは話せても一般人と普通に話す自信がなかったからだ。
既に娘も嫁ぎ、後は体力が続く限り仕事を続け、退職したら夫婦二人で
平穏な日々を過ごす。それが二人にとって幸福な人生であり、
そうなるものだと信じて疑わなかった。
そう、あの日までは…。