⑤ 『家族』
「おじいちゃん!」
「え?」
足元を観ると孫の啓太が私の足に、しがみついていた。
小学三年生の啓太は長男、直哉の息子だった。
「啓太ちゃん!」章子が驚いた顔で言った。
「こうなると思ったんだ」
その声に振り向くと、直哉が夫婦で立っていた。
「直哉、何でここに・・・?」
「何でって、休み取るの大変だったんだぞ。急に行くって言いだすし、
しかも布引観音まで歩くって聞いたから、四日間、終電近くまで
残業して、やっと有休とったんだからな」
「お母さん大丈夫ですか?」直哉の妻、千鶴が心配そうに声を掛けた。
「千鶴さん…」
「おばあちゃん、大丈夫?」
「啓太ちゃんの顔観たら、おばあちゃん元気が出たみたい」
「無理すんなよ」
そう言うと直哉は章子に背を向けて、しゃがみ込んだ。
「俺がおぶって行くよ」
新平は驚いた顔で言った。
「お堂までは、かなりの山道だ。お前一人で章子を背負って、
そこまで行くのは無理だろう」
「よく言うよ。自分だってやろうとしてたくせに」
「出来るところまでやろうとしてただけだ」
「心配すんなって。もう少ししたら、三枝子が、だんな連れて来るんだよ。
そうしたら、交代しながら登ることになってんだ」
「そうか。すまないなー、お前たちに迷惑掛けて」新平は神妙な顔で言った。
「俺だって親孝行がしたいと思う時もあるんだよ」
そう言って歩き出した直哉の背中に、思い詰めた顔で新平が声を掛けた。
「新平・・・」
「何?」
「俺は、俺は、仕事ばかりで親らしい事は何もしてやれなかった。
本当にすまないと・・・」
すると、直哉は立ち止まり、前を向いたまま言った。
「俺も三枝子も親父の背中を観て育ったんだ。それでいいじゃないか」
「・・・・」
その言葉に新平は俯いたまま、何も言えなくなっていた。
「おじいちゃん、泣いてるの?どこか痛いの?」
「眼にゴミが・・」と言いかけた新平が言い直した。
「嬉しく泣いてるんだよ」
「何で?」
「啓太のお父さんが優しくて、かっこいいからだよ」
「うん、お父さんかっこいいもん」
嬉しそうに答えた啓太と手を繋いで歩く私の前を、
涙ぐむ章子を背負い、直哉が一歩、また一歩と、
お堂へと山道を登って行く。
「お父さーん。お母さ--ん」
その声に振り返ると、三枝子達が手を振りながら歩いて来ていた。