- クリスタル -
ジャンとシーラスは三十分ほど歩いたところで馬車道を外れ、二人がやっと並んで
歩けるほどの狭い道に入った所でーラスが立ち止まった。
「ジャンちょっと待って」そう言うとシーラスは銀細工の付いたレモンほどの大きさの
クリスタルを取り出し、背負っていた魔法樹で出来た杖にはめて呪文を唱えた。
「イ・ルドナ・ダイエ」 やがて輝きだしたクリスタルが辺りを照らした。
「さ、行こうか」二人は歩き始めた。
森の小道は月明かりも届かないほど木々に覆われ、シーラスが灯す灯りが無ければ
歩くこともままならない、夜の生き物達の世界だ。
少ししてジャンが道を灯しているクリスタルを見つめながら口を開いた。
「それにしても便利なもんだな、クリスタルは」
「最初に作るのが、この光のクリスタルでね。これを作れて、初めて魔導師になれた
気がしたよ」シーラスは修行を始めた頃の事を思い出し感慨深げな表情でクリス
タルを見つめた。
「え?作るって・・光るクリスタルを探してくるとかじゃないのか?」
ジャンはクリスタルが元々持っている力を引き出すのが魔法だと思っていたので
驚いたのだ。
「そんな便利なクリスタルがあったら僕が欲しいね」
「そうか・・じゃ、他のクリスタルも作ってるのか?」
ジャンがクリスタルに興味を持ったのを感じたシーラスはこれから先を考えて
クリスタルの事を説明するにはいい機会だと思い、話始めた。
「一言で言うとクリスタルは魔法を溜めることが出来る容れ物ってこと、瓶や樽や
袋のようにね。実は他の物でも同じ魔法が出来る、それが木や鉄や布でもね。ただ
クリスタル以外の物は特定の魔法に力を発揮するだけなんだ。その点クリスタルは
殆どの魔法を大量に溜めて取り出すことが出来るとゆうわけ」
「へー、知らなかったな」ジャンは初めて聞いた魔法とクリスタルの関係に関心する
ことしきりのようである。
それを見てシーラスはさらに続けた。
「実はさっきの治療魔法もクリスタルが無くても出来るけど、同じ効果を出すのに
十倍は時間がかかるよ。魔法が強くなければ強力なクリスタルは作れないし
取り出す魔法が弱ければ強力なクリスタルでも弱い魔法にしかならない。だから
魔導師は魔法の向上とクリスタルを作るのが日課になってるよ」
「魔法がいるんじゃ、俺にクリスタルは使えないってことか」
ジャンは頭の後ろで手を組んで残念そうに言った。
「いや、そうでもない」
「そうは言っても、これから魔法の修行してたら間に合わないだろ」ジャンは訝しげに
シーラスを見た。
光のクリスタルに照らされたシーラスがゆっくりとジャンを見た。
「一つ例外がある。パワークリスタルと呼ばれるやつさ」
「パワークリスタル?」
「これを作れて初めて魔法師になれる。最も強力なクリスタル。魔法具と組み合わせ、
契約の儀式で使用者と波動が同調した時に魔法が発動し魔法剣となる。そして
所有者の能力が高ければ高いほど力が発揮される」
「能力って魔法のことなんだろ」
「いや、魔法具が仲立ちをするから魔法が無くてもいいんだ。魔法師が居ればクリス
タルに力を注ぎ込めるからね。心の力で全てが決まる、東の国では気とも呼ばれて
いるそうだ」
「何だか魔法具だの波動だの契約だのややこしいな」
「言葉にすると複雑そうに聞こえるけど、実は単純なんだ。魔法具とクリスタルに意識
を集中させて同調するんだ、ただそれだけのことさ」
「う~ん・・」ジャンは腕組みをして中空を見つめたまま、ため息混じりで鼻から声を
出してみたが、理解出来ない表現が他にあるなら教えて欲しいほどだった。
「あー、わかんねー。波動が同調ね・・心で何を感じるんだ?それと魔法具ってどんな
んだ?」ジャンが疑問を投げ掛けながらシーラスを見るとシーラスは人差し指で前を
指した。
そこには木々の間から小さな湖とその畔に建っている建物の灯りが見え隠れして
いて、二人が目的地に着いたことを示していた。