官僚のいた夏(USA版) | 尾川永次のブログ

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                 官僚のいた夏(USA版)

ここは「とある国」の「とある首都」にある「とある政府機関」が建てた地上二十六階
 地下三階SRC構造で薄茶色のゴージャスな「とあるビル」の二十階に入っている
 「とある薄暗い一室」に「とある男達」がいた。

 その薄暗い部屋の中で六人の男達が、徹夜明けではカップラーメンが出来るのを
  待つ間に寝てしまうほどゴージャスなソファーに身体を沈め
  ヨントリープレミアム缶ビール片手に当り目をクチャクチャやりながら
  バイオニア製 六十インチ地デジ対応フルハイビジョンプラズマテレビ
  ”グロ”希望小売価格九十四万円(税込)の美しい映像を観ていた。

 その中の、目の細い達磨のような顔をしたメタボ腹の男が五百ミリリットルの
 缶ビールを一気に半分ほど胃袋に押し込んでから野太い声で言った。
「ゲプッ・・このテレビ、映りが悪いから廃棄処分だな。処分先はノーフォークじゃなくて
 ニューヨークのマンションでいいからな」
 この羞恥心のかけらも感じさせないげっぷ音を出し、鼻の穴に正露丸を
 突っ込まれても文句を言えないほど図々しい事を平気で口にしたのは
 年金保健局主席統括管理官、ジーン・ハックマン五十七才だった。

「またですか。この前廃棄処分にして持ち帰ったゾニーの五十五型液晶テレビは
 どうしたんですか?こう度々持って行かれては・・」
 困惑した顔で言い返したのは浅黒い狸顔の保健局資材管理部長の  
 ニコラス・ケイジ四十八才だ。

「あー、あれな。孫がゲーム機買ったんで自分の部屋に持って行くって言い出してな」

厚顔無恥と言う言葉はこの男の為にあるのだ。

それを横で聞いていた悪役の時のジャック・ニコルソンよりはるかに目付きの悪い
  年金保健業務室長代理のアントニオ・バンデラス五十才が口を挟んだ。
「管理官、それはまずいですよ」
「硬いこと言うなよ。テレビなんて買ったこと無いから何買っていいか分からんのだよ」
「このテレビに目を付けたのは私が先ですから。嘘だと思うなら後ろを見て下さいよ」
 大ちゃんが強い口調で言った。
「おいおい、聞いてないぞそんなこと!」
眉間にしわを寄せてジーン・ハックマンがニコラス・ケイジを見た。
ジーン・ハックマンに催促されたニコラス・ケイジがテレビの後ろに回るとそこには
 一枚の紙が貼ってあった。
「これは・・」
紙を剥がして見るとそれは店頭で良く見かける購入予定者の名前が書いてある
  予約済み用紙だった。
そこには確かに毛筆を使い達筆な字で「
アントニオ・バンデラス様」と書かれていた。
しかも字の下手な
アントニオ・バンデラスの字ではない・・どうみても趣味で書道教室を
開いている
バンデラスの女房、二コールの字に間違いなかった。
ニコラス・ケイジはその紙をジーン・ハックマンに見せると同時に

 アントニオ・バンデラス
が言った。
「ほらね、俺が先なんですよ」
「何だ、それじゃあしょーがねーな」
ジーン・ハックマンは諦め顔でビールをぐいっと飲んだ。

ニコラス・ケイジは勝ち誇った
アントニオ・バンデラスの顔を見ながら心の中で
 叫んでいた。
・・何が予約済みだよ、このたこ!ご丁寧にこんな紙まで用意しやがって。
  勝手に私物化してるんじゃねーっつうの・・
ニコラス・ケイジはおもむろにテレビを台ごとぐるりと百八十度反転させコードをしまう
 ポケットの蓋を開け裏蓋を見せた。
そこには白いマジックでニコラス・ケイジ様売約済みと書かれてあった。
「私の方が先なんですよ」
ニコラスは勝利宣言の薄笑いを浮かべた。
ジョージの顔がみるみる紅潮していく。
「ちっ、なんて汚い真似しやがるんだ、資材管理部は」
唇を噛んで悔しがる
アントニオ・バンデラスを尻目にニコラス・ケイジは勝ち誇った
 顔で
アントニオ・バンデラスの予約済み用紙をこれみよがしに丁寧に折り畳み
 親指と人指し指でつまみ汚物を捨てるようにゴミ箱に捨てた。

「まあまあ、あと二台買えばいいじゃないですか」
なだめる様に割って入って来たのは細身の青白い顔をした管理官のトム・ハンクス
 三十才だった。
それに合わせてパソコンオタクでお調子者の保健センター課長のウイル・スミス
  四十二才がへらへらした顔で言った。
「そうそう、予算なんてどうにでもなりますから」
「仕方ない、今回は譲るか・・しかし売約済みとは思わなかったな」
  そう言いながら
アントニオ・バンデラスは苦虫をかみつぶしたような顔で当り目を
  食いちぎった。

そんな会話をまったく無視して食い入るようにテレビCMを見ていた総務部長の
 デンゼル・ワシントン四十六才が顎の辺りをさすりながらにやけた顔で
 のたまった。
「ええ女やなー。名前、ユマ・サーマンいいよったっけな。今年の年金の
  キャンペンガールにどないでっしゃろ?」 
それを聞いてトム・ハンクスがため息をつきながらデンゼル・ワシントンに言った。
「ワシントン部長またですか。この前の一件、もみ消すの大変だったん
 ですよ」
それを聞いたデンゼル・ワシントンがにやけた顔をトム・ハンクスに近付けて言った。
「えろう、おかんむりやなトム・ハンクス、管、理、官。問題あらへんて、相手も
 スキャンダルは困るさかいな。それよりトム・ハンクス管理官の親戚、文部局に
 入れるのごっつ苦労したんやで」
デンゼル・ワシントンの言い方は恩着せがましい上に完全に見下した言い方で
 あったがそれはトム・ハンクスが三十才という異例の若さで管理官になれた事と
 関係していた。

この部屋に居る全員が自分達のいいなりになるトム・ハンクスを管理官に引き上げて
  尻拭いを全てトム・ハンクスに押し付ける腹だったからだ。
だがトム・ハンクスはそれを承知で管理官になった。ハーバード以外の大学出身で
 三十才の若さで管理官になるのは異例の事であり地位と給料二千万が手に
 入るのだ。
後はこいつらが辞めてしまえばどうにでもなる。責任さえ自分に掛からないように
 すればいいのだ。そう考えていたトム・ハンクスは無理な要求も二つ返事で
 引き受けた。

「デンゼル・ワシントン君は相変わらず芸能人が好きだねー」
にやにやしながら言ったジーン・ハックマンにトム・ハンクスが再びため息をつき
 ながら釘を指した。
「ハックマン管理官、この前の温泉旅行の一件、向こうの親が金で手を
  打ってくれたから良かったものの、もう少しで裁判沙汰になるところだったん
  ですよ」
その時、
アントニオ・バンデラスが薄ら笑いを浮かべながら自慢げに口を挟んだ。
「素人に手を出すから問題になるんですよ。相手にするなら半プロですよ、半プロ」
アントニオ・バンデラスが言う半プロとは主にキャバレーなどに来るアルバイトの
 女性を指していた。
プロのキャバ嬢では到底かなわない、素人は何かと面倒くさい。
その点、店に縛られていないアルバイトならお金さえあればお互いに割り切った
 関係が保てると勝手な理屈で豪語しているのである。

「そんなことより管理官、豚インフルエンザのせいで年金問題に支障が生じたとは
  どういうことなのでしょうか?」
  このままだといつもの話で終わってしまうと思ったトム・ハンクスは本来の話に
  戻した。
「そうそう、この状況だと我々の思惑通りには行かないですよね」
お調子者のウイル・スミスが乗って来たのでトム・ハンクスは少しほっとしていたが、
 ウイル・スミスが言った思惑という言葉がどういう意味なのか分かりかねていた。
「とりあえずニュースを見て現状を把握しないといけませんね」
トム・ハンクスの言葉で全員がテレビを見た。

画面は美人の誉れ高い民放のアナウンサー、
アンジェリー・ジョリーが真剣な
 顔でニュースを喋っていた。
「この娘ええなー。最近フリーになったんやろ。五十万も出せば出来るん
 ちゃうかな?」
デンゼル・ワシントンはでれーっとした顔で周りを見たが誰も相手にせず黙って
 テレビ画面を観ていた。
・・なんや、無視かいな。おもろない奴らやな・・そう頭の中で呟くとデンゼル・ワシン
  トンはビールをいっきに飲んでから
アンジェリー・ジョリーをでれーっと見た。
  デンゼル・ワシントン四十六才、この男から溢れ出る痴性(知性)を誰も止める
  ことは出来なかった。

テレビではアンジェリー・ジョリーが中継先とやり取りをしている。
「国立免疫研究所前と中継で繋がっています。研究所前のケビン・スペーシーさん」
「はい、研究所前の
スペーシーです。先程、国立免疫研究所のジョニー・ディップ所長
  から発表がありましたので、VTRを御覧下さい」
「今回のインフルエンザは主に十代から五十代の人に掛かり易い傾向があり六十代
  以降は何らかの免疫があり、掛かりづらいのではと推測され、他の国でも
  同じような報告がされています」
それを聞いたジーン・ハックマンが腕を組み憮然とした表情で言った。
「おいおい、ほんとかよ!?じじばば駄目なの?がっかりだな」
「ま、しょうがないでしょ。こんな結果になるとは誰も思っていなかったわけだし」
  ニコラス・ケイジも諦め顔で頭を掻いている。
「菌ちゃんの勝手なんだからどうしようもないですよ。後は厚生局の仕事」
そう言って
アントニオ・バンデラスが当り目を口くわえて天井を仰いでいる
 とジーン・ハックマンがふんぞり返ったままビール片手に話始めた。
「そこなんだよ、インフルが収束してみろ、次の標的はここだ。下々の頭の中は
 健康と金。だから安全だと分かったら次は金にいくんだよ。年金問題でまた
 突付かれるわけだ」
「確かにそれは管理官のおっしゃる通りですね」太鼓持ちのウイル・スミスが
 同調した。
「いいんじゃないの、言わせておけば。俺には関係ないし」ニコラス・ケイジが
 気楽そうに言った。
「そやそや、そないなことどうでもえーちゃうん」デンゼル・ワシントンは話が女から
 逸れたので退屈そうに言った。

このように彼らがいかなる状況でも、のほほんとしてられるのは、どんなに国が
 赤字でもどんな問題が起きても給料が保障されているからに他ならない。
主席統括管理官のジーン・ハックマンの年収は三千万、退職金七千万に天下り先も
 すでに五年分内定している。むしろ事を荒立てると天下り先が無くなる恐れも
 ある、当らず触らず何事も無く過ぎ去ってくれれば一番いい。
 ジーン・ハックマンはそう思っていた。
保健局資材管理部長のニコラス・ケイジは年収二千五百万、大岡山の官舎の
 家賃が月三万。問題を作ったのは前任者であり、自分は何もしていない。
 とにかく責任さえ被ることなく無事に通りすぎてくれればそれでいいのだ。
後も似たり寄ったりの状況だった。

まったくこんなのがいるから真面目に働いている人間がいい迷惑をするのである。

だが、今回はさすがに知らぬ存ぜぬではすまなくなっていた。
年金の記録が消えていることや無駄な使い込みが公になってしまったからだ。
統括管理官のジーン・ハックマンに責任問題が掛かってくるのは必定であり、
 さすがのジーン・ハックマンも真剣に成らざるを得なくなっていた。
もっとも、残りの連中の頭の中は今更そんなこと言われても
  ”リンダこまっちゃう”くらいにしか感じていないのである。

それでも、とにかく今回のインフルエンザで支出が大量に減ってくれた後に
 経済が順調になれば痛い腹を探られることも無くなるだろうと計算していた
 のである。

さらにアントニオ・バンデラスが楽しそうにとんでもないことを言った。
「しかし思ったほどじゃなかったな。おかげで賭けに負けちゃったよ」
それを聞いて女の次に金が好きなデンゼル・ワシントンがにやりと笑って言った。
「おかげさんでぎょうーさん飲み代稼がせてもろうて助かりましたで」
あろうことか、この二人は一ヶ月でどのくらい広まるか賭けをしていたのである。
「二人とも不謹慎ですよ」さすがにトム・ハンクスが二人を軽くたしなめたが、言うだけ
 無駄だった。既に鳥での賭けが始まっていたからだ。

・・官僚を知性ではなく良心で選んだら、どれだけまともな国になるだろうに・・
トム・ハンクスはため息をついてうなだれた。

少ししてニコラス・ケイジが身を乗り出し言った。
「確かにこのまま終わると政治家どもが点数稼ぎにこちらを攻撃して来るだろうな。
 せめて年金問題が少しでも片付いてくれると助かったんだがなー。防衛局の
 ジェフ・ブリッジスが保菌者の多い地域知りたがってたから教えてやったのに。
 がっかりさせられたよ」
トム・ハンクスが驚いた顔をしてニコラス・ケイジを見ると、ハックマンはそれを察知
 して話始めた。
「防衛局はな、これを機会に細菌兵器の研究をしたいらしくてね。
 だから予算を増やす為の事実が欲しい訳だ。だから水際の検疫ばかり
 だっただろう」
「まさか・・国内に入れる・・」
  トム・ハンクスは一瞬そんな事をしていいのかと言い掛けて止めた。
  こんな話を平然としている人達にヒューマニズムなど馬の耳に念仏であり
  仏陀に教えを説く方がなんぼかましに思えたからだ。

その時テレビでは別の中継が入って来た。
「今回新たに都内での感染が確認されましたがそれに関して財団法人
  国立疾病協会のモーガン・フリーマン研究員の見解をお聞き下さい」
「ロスでの発症を考えますと発熱のある海外旅行者が簡単に検疫をすり抜けたことに
  とても懸念を抱いており責任問題になりかねないのではと思っています」

「なんだこいつ!余計なこと言いやがって。山でも海でもいいから遠くに飛ばせ!」
それを聞いてジーン・ハックマンが怒り出したがいつもの事とニコラス・ケイジは
 気にもせずテレビを見ながら言った。
「やはり鳥が来るまで待つしかないか。で、どうなんだハンクス管理官?」
「鳥は期待出来そうですね。年金問題の解決にはもってこいかと思われます。
  タミフルも有効では無いそうですので、効果は絶大かと」
それを聞いて困惑の表情でトム・ハンクスが恐る恐るニコラス・ケイジに尋ねた。
「まさか、保菌者を入国させるのですか?」
それを聞いてジーン・ハックマンが笑い出した。
「ははは、まさかそんなことするわけないだろう。サポートだよサポート」
「サポートってさっきの防衛局の・・」
「いや、今回は別の所からのお願いだ」
すると横からアントニオ・バンデラスが小声でトム・ハンクスに語りかけてきた。
「お互いの利害関係が一致すればいいんだよ」
「利害関係・・」
「人間は窮地に立たされた時、守ってくれると好感度が上がるものなんだ。
  選挙近いだろ」アントニオ・バンデラスはそう言うとトム・ハンクスに満面の笑みで
  ウインクしたらカッコ良かった。
「まさか・・それって・・」
「おっと、それ以上は聞かない方がいい。今回の相手は多少出世に影響するからな」
ニコラス・ケイジがアントニオ・バンデラスの後を続けた。
「政権交代なんて俺達が辞めた後でしてくれればいいの、わかるだろ。この国を
  動かしているのは俺達官僚。あいつらは台風みたいなもの。じっとしてれば
  通り過ぎるって分け」
そう言いながらニコラス・ケイジは立ち上がり部屋の隅に置いてある冷蔵庫に
 ビールを取りに行った。
するとジーン・ハックマンがソファーに身を沈めたまま言った。
「この前も与野党の若手があれこれ言うもんだから何も出来ないくせに騒ぐなって
  言ってやったよ」
「さすが主席管理官!」
ウィル・スミスがおだてた。
「おだてんでいい、それよりこのまま支持率が低いと何か手を打ってくる可能性も
  あるから監視が必要だろうな。刃をこちらに向けられても困るし政権交代
  でもして色々とほじくられても困るだろ、俺達には関係ないことだからな。
  だからと言って人気が出て支持率が上がるとそれを盾に暴挙に出るんだよ
  あいつらは。要はアクセル、ブレーキ踏ませてもハンドルは渡さないことだ」
「政治カー運転の極意ですね」
  
ウィル・スミスのくだらない駄洒落で部屋は笑いに包まれた。

「で、今度はデータを内閣調査室のトム・クルーズ参事管に渡せばいいんだな」
ジーン・ハックマンがニコラス・ケイジに念を押した。
「はい、スケジュールとデータは後ほど管理官の所へお持ちします」
「ああ、頼むよ」
トム・ハンクスがニコラス・ケイジに尋ねた。
「ケイジ管理部長、データってどのようなものなんですか?」
「リスクの高い地域が特定してあるんだ」
トム・ハンクスは驚いた。
「そんなものどうやって調べるのですか?我々にそのような部署は無いはず」
「ただ闇雲に何千億の金を使っていたわけじゃないんだよ。その中にはお国に役立つ
  ために使ったものもあるってことだ。情報収集能力が全てなんだよ、この国では」
ニコラス・ケイジはビールを一口飲んでニコリと微笑んで続けた。
「FBI以上、CIA未満。NSAとどっこいどっこいかな」

トム・ハンクスは全てを理解した。消えた年金記録ではない、消された年金記録と
 使い道だったのだ。資産運用や箱物など、それを隠す為の偽装にしか過ぎない
 ことを。・・金と暇に任せて現代版パンドラの箱を作ったのか・・
 トム・ハンクスは頭の中で呟いていた。

「ところで何でわざわざデータを渡すだけなのに会う必要があるのですか?
  電話やメールでいいのでは・・」
トム・ハンクスの疑問にジーン・ハックマン答えた。
「今の機械は証拠が残るからな。それに対面して顔と恩を売ることが大切なんだよ」
「そうなんですか・・」
それを聞いたトム・ハンクスにはマフィアとCIAと年金保健局の違いが分からなく
 なって来ていた。

少ししてアントニオ・バンデラスが嬉しそうに言った。
「これで全て終りですね。じゃあ解散と言う事で・・」
アントニオ・バンデラスは夜に浮気相手と会う約束をしていたので早く帰りたくて
 気が気で無かったのだ。

それを聞いて全員が席を立とうとした時・・先程のニュース番組が終わったので
 ジーン・ハックマンがチャンネルをNBCに変えると同局の女性キャスター、
 キャメロン・ディアスによる緊急報道特別番組なるものを放送していた。

「本日、臨時国会で与党若手議員から出されました局庁改正法案が全会一致で
 採択され、先程、大統領からこの法案に基づき発表がありましたので
 ここからは政治評論家のブラッド・ピット氏にお話を伺いながら進めて行きたいと
 思います」
この時、テレビを見ていた全員が異変に気付いていた。
緊急報道特別番組と銘打っている割りにはキャメロン・ディアスとブラッド・ピット
 からは緊張感のかけらも感じられないからだ。むしろ満面の笑みを浮かべた
 二人はこれから婚約発表でもするかのようである。

「おいおい、局庁改正法案何て聞いてないぞ!いつこんな法案が通ったんだ?」
ジーン・ハックマンが慌ててトム・ハンクスに聞いた。
「多分、ジャック・バウアーがビルの中で銃を乱射しているのを観ていた時かと・・」

確かに臨時国会が行われていたがこのような法案が出るなど誰も聞いていなった。
「大丈夫ですよ。彼らに大それた事は出来ませんよ」
ニコラス・ケイジの言葉にジーン・ハックマンも冷静さを取り戻した。
「ま、そう言えばそうだな」

テレビ画面ではメインキャスターのキャメロン・ディアスが天下りに乗れなかった
  官僚出身の政治評論家
ブラッド・ピットに今にも笑い出しそうな顔で問いかけた。
「そ、それでは
ブラッド・ピットさんに先程総理から発表になった部分の概略をお願い
  したいと・・ぷぷっ・・思います」キャメロン・ディアスは噴出す寸前の状態だった。
「わ、私がするんですか・・が、概略なんて必要・・ぷっ・・」
ブラッド・ピットは笑うのを我慢して閉じた口がふぐの様に膨らんだ。
「で、では、お願いします・・」
キャメロン・ディアスは何とか笑うのを堪えた。この辺はさすがNBCの
 メインキャスターである。プロの意地を垣間見た気がした。

「は、はい・・何とか、がんばって・・」そこまで言った時。
ガン、ガン、ガン。突然
ブラッド・ピットは頭を机に叩きつけた。
笑い出しそうな自分を抑えるのにはこれしか方法がないと思ったからだ。
額から出血した
ブラッド・ピットを見たキャメロン・ディアスは口を手で押さえて
 断末魔の声でブラッド・ピットに言った。
「ブラッド・ピットさん・・お、お願いだからこれ以上笑わせないで・・」
「は、はい、そ、それでは・・せ、説明します・・ひーひー」
ブラッド・ピットは震える手でフリップを持ち、笑いをこらえながら説明を始めた。
「と、特殊法人と・・ど、独立行政法人はす、す、全て・・
  民営化だってよ・・わーはっはっは・・」ついにこらえ切れず決壊したダムの様に
  笑い出した。
横ではキャメロン・ディアスが下を向いて笑った顔を見せまいとしていたが肩が
 小刻みに震えている。
「す、すみません、続けます。はあ、はあ・・」
ブラッド・ピットは何とか寸前のところで持ち直し続けた。
「はあ、はあ、はあ・・つ、次に、う、うぷ・・よ、予算案も国政案も
  一般公募だって!ぎゃははは・・で、その続きがあるんだよこれが・・ひーひー・・
  負けたら、地方公務員と、い、入れ替えだって!ぎゃーはははは」
机を叩きながら笑ったブラッド・ピットの目から次々と涙が溢れ出てフリップを読む
 こともままならない状況に陥ったが、ブラッド・ピットは読んだ・・最後の力を
 振り絞って読んだ・・。
その姿は見るものに感動を与えるほどだった。
「こ、公務員の給料は、み、み、民間企業の平均にしますだって・・ひ・・ひ・・ひ・・」
ブラッド・ピットは笑い過ぎによる酸欠状態で顔にはチアノーゼが出ていた。
「い、息が・・」
その言葉を最後にブラッド・ピットは崩れ落ちた・・。
だがブラッド・ピットは薄れ行く意識の中で幸せを感じていた・・悪魔と闘い続けた
 自分に天使が舞い降りたのだと・・。
その横でキャメロン・ディアスは手を組んで涙ながらに中空を見つめて呟いた。
「神様ありがとう。良かったー、上級公務員の試験に落ちて」と・・。

その様子を見て茫然自失としていた宮本はふと、歌声に気付いた・・振り向くと
 ジーン・ハックマン以下全員が肩を組み流れ出る涙も拭かず愛唱歌「官僚の星」
 を歌っていた。

「思い込んだ~ら 出世の道を~ 行くが~男の~ ど根~じょ~お~  
 馬っ鹿に見える 敗者はしもべ 官僚の星をちらつかせ
 血税使え 涙はいらぬ は~たらけ貧~民 どんと~行~け~・・」
歌は延々と続いた・・

トムは歌っている彼らの横を通り抜け、とある会議室を出て、とある部屋に戻り机を
 片付けてからタイムカードを押し、怒号と笑い声と泣き声と歌声が渦巻く「とある
 ビル」を出た。
見上げたワシントンの夕暮れが美しかった。

              
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