一悶着あり退居し自宅介護を選んだ利用者が再入居となった。
齢90前、呼吸器疾患、重度の糖尿病で自宅で素人が看るにはナカナカな爺さんで、気に入らないことがあると手を振り上げたり悪態をついたり。だが、それより大変なのはキーパーソンの妻。


私なら爺さんの具合をまた元気にすることが出来るかもと妄想のような自信に満ち溢れ、爺さんを家で介護すると言い出した。
婆さん以外の誰もが『それは無理』と烙印を押し、当然ながら南くんも婆さんを説得したがそりゃそりゃ聞く耳ナッシング
爺さんはキツイから帰りたくないと言うのを無理やり車に押し込み連れて帰った。
退居する姿を見ながら『何が不憫て、こんな婆さんと結婚したばかりにこんな苦しい最期かよ』とアタシは片眉をあげた。


退居後、意味を余りなさない水分補給でしかない点滴を浮腫んだ体に毎日施し爺さんの状態は更に悪化。身動きも取れなくなったため、毎日のように訪問看護師や医者に連絡する婆さん。人の言う事は聞かないくせに、口はバリ達者だからいただけない。

退居の際、退居後の婆さんの問題行動にウチの施設の再入居は出来ないと散々釘をさされ、自分で良くすると啖呵を切った舌も乾かぬうちに救急搬送を要請し何故か爺さんは救急病院へ。
しかし爺さんに施す医療など、とうの昔になく老衰でお迎えを待つばかりとなった。


救急病院では取り立てて治療らしい治療はせず、これ以上の入院継続は受けられないと受け皿を探した結果、婆さんが再度南くんに懇願し鬼になりきれない彼は渋々引き受けることに。
但し、婆さんと息子には治療というようなことを施すような状態ではないし、何なら今日旅立ってもおかしくないほど状態は悪いことを切々と説明した。


再入居した後の爺さんの状態をみたアタシは、よくもこんな状態の爺さんを啖呵を切った所に無理やり突っ込んだもんだと呆れた。
最大限に見積もっても到底一ヶ月など持つはずないターミナル状態で、順当にいけば一週間持つか持たないか。

そんな状態の爺さんを婆さんは数日前よりは元気だと思うから、出来るだけのの医療はお願いしたいと宣う。
これが自分の身内なら叩き出して大説教をかますところだ。
息も絶え絶えの爺さんを転院で負担をかけ、数日先に命の終焉を迎える人間に医療を施すのは、適正な医療ではない。爺さんのためではなく、自己満足のエゴだ。


死は万人に平等に訪れる命の摂理で、90前の極限状態で息をしている爺さんには残された時間で穏やかに送り出すほうに家族もシフト変換するほうが余程爺さんには必要な行動だ。



そんな中、一悶着が起こった。