仕事でのお悩み

 

 慌てて時ちゃんの部屋に行く。

時ちゃんと言っても60代だが先天性疾患があり、この年まで生きているのが珍しいとされている時ちゃんで、以前は食事も介助すれば食べれていたが今は嚥下機能の低下で食事は取れず、最終的な高カロリー輸液だけで命を繋いでいる。



末っ子の彼を宝物のように大切にしていた長兄さんが亡くなり、1秒でも長生きさせてという家族の希望は苦しまない最期を迎えることにシフトチェンジされている。


とは言え、穏やかな日常が繋げるようにとアタシ達はなるべく肺炎を起こさないように必死のパッチで痰を引き小さな異常を見つけては早めの治療でいくつもの山を越えてきた。



言葉さえも話せなくなった時ちゃんは僅かな表情の変化や目の合わせ方で調子の良し悪しを見なければならないし、嫌いなスタッフだと時ちゃんはあからさまに抵抗したり不機嫌な声を上げたりするのでなかなか状態を把握するのは難しい。



アタシは数年、時ちゃんを観ていることもあり時ちゃんの調子の把握は出来るし時ちゃん的にアタシは好きなスタッフの一人らしく、どんな処置をしても抵抗することも声をあげることもなく、たまにアタシを見て笑ったりドヤ顔をしたりもする。そんな時ちゃんだからアタシよりかなり年上兄さんではあるがマスコット的に可愛い時ちゃんだから苦しい思いはさせたくない。


部屋に行くと明らかにいつもと違う時ちゃんの表情と切迫した呼吸にアタシは『時ちゃん、時ちゃん、わかるや?時ちゃん、聞こえるや?!』と肩を揺すった。掴んだ肩が熱い。



『熱、出とるが!コロナとインフルは調べとるか?』夜勤スタッフに確認するが痰が多いから採血はしたが微熱だったから調べていないという。



急いでコロナとインフルをチェックし時ちゃんに有効な抗生剤へ変更、ステロイドを急遽追加してよいか南くんに確認し直し怒涛のように処置を追加した。

引ききれなかった気道に溜まった痰を日勤スタッフがエンドレスで回収する。



モニターを付け後は痰の量と尿量、輸液のバランスを見ながら体内の水分バランスを良い具合に持っていかなきゃ、一気に急変するかもしれん。

昼前に検査に呼ばれ結果は両側肺炎、胸水貯留。

肺炎が両側ってことは油断ならん。水が溜まってるならガンガン輸液も出来ん。

再度検査結果とデータ、出ている指示を照らし合わせて指示を取り直す。



必死のパッチで調整と治療を重ね、夕方やっと虚ろな眼から脱却し意識を取り戻した。


バタバタしながらも何とか通常業務と急変しかけた二人をある程度の状態に戻し一息つく。



『どうなるかと思いました』とまだ若いスタッフも息をついた。


『あぁ。間に合って良かった。スンデのとこやったな。』とアタシ


盛さんの異常を察知して迅速に動きスンデのところでブロックしたスタッフ

時ちゃんの異常を見過ごし急速に悪化させたスタッフ

介護士さんから言われて観に行き、慌ててブロックしたアタシ


全て『看護師』がしたことだ。



患者や利用者にとっては1番身近な命の頼りどころとなるべき『看護師』


だけどベテランと呼ばれる年数を経てもプロ未満であるのに危機感を持たないアマチュアがいるってのを痛感した朝だった。



因みに時ちゃんもあれから数日で山を完全に越えて、今日はアタシにドヤ顔を見せてくれた。


穏やかな週末でありますように!