夜もふけだした頃、アーリアンの暖めたDJブースにゴアギルが登場した。

ドレッドヘアと仙人のようなヒゲをたくわえて、サイケデリックなシャツに身を包んだDJゴアギルじいさんがDATのスイッチに手を伸ばす。

初めは緩やかに、気がつけばゴリ押し一辺倒である。

音圧と書かれたアクセルをベタ踏みにしたまま、今年もゴアギルは僕らと24時間を過ごすのだ。

そんな勢いで24時間も体力がもつのか? という疑問も去年の同じ場所で解決済み。すっかり安心して任せておけるのだ。フロアに詰め掛けた人たちも分かっているのか、それとも何か別の決意や思惑があるのか、薄っすらと笑みを浮かべてスピーカーから浴びせかけてくる音の波にノッてハネている。

アーリアンからゴアギルへとDJブースの主が変わってからは、フロアに人が増え続けていく。

ゴアギルの一直線なDJスタイルのせいなのか、踊る人たちもまっすぐダンスフロアを目指し、はたと足を止めるとその場で力強く地面を踏みしめだした。

DJブースの正面に陣取った僕の店は、なんとも色々とよく見えるベストポジションだったようだ。

ゴアギルにDJチェンジしてから約2時間、僕の店への客足は途絶え、僕やTAKADETH君、友人達は一服しながらニヤニヤと群集にかすむDJブースを眺めては、「はじまったね。」「はじまっちゃったね。」と思いついたことを一言にして言い合う。

僕の店にきてくれたお客さんや、友人たちとゴアギル談義に花が咲き、お店そっちのけで乾杯となる。

「この音、修行だよね!」とか、「今日は負けない!」と言った真摯な態度の求道者タイプの友人の横から、ワイン片手に「えー、何これ?何ここ?異次元?やってもうてエエの?ゴアギルすごい!やってまおー!」と多分(?)異次元に足を踏み入れている友人が走り去るのを眺めていた。ああ、楽し。

僕はと言えば、ゴアギルに甘えたおしていた。

こ~んな感じに腰をふっても、あんなに大胆に飛び跳ねても、ちょっと言い表せないくらいの変てこなステップを踏んでも、ゴアギルの編み出す音の上からはみ出すことはないからだ。僕の思いつく変てこな事の遥か上をゴアギルは行く。

ここ数年、トランス好きな人たちが言う「変態最高!」というフレーズがしっくりときた。数ある変態的表現のなかでも飛びぬけた変態表現。ゴアギルという名の表現方法。

水平線のように広がる懐の広いゴアギルワールドで、僕らはドタバタと好き放題に暴れ続けたのだった。

朝が来て、踊り、また夜が来て踊り続けた。
ゴアギルは時折、カメラのフラッシュをダンスフロアに向けて光らせながらニコニコとベラボウなトランスサウンドを編み続ける。
もはや、ゆるやかにさえ聞こえてくる強引なゴリ押しサウンドに浸りきってゴアギルを眺めると、じいさんとは思えないほどフレッシュな彼が立っていた。

何度も続くアンコールに応えて、ゴアギルは24時間を越えるDJプレイを見せつけてくれたのだった。
最後はアーリアンばりの激しいトライバルアンビエントで幕がおり、突然の静寂・・・。

呆然と無人になったDJブースに視線を投げる人たち。彼らは何を思ったのだろうか。

僕はと言えば、「来年はどうやってここに辿り着こうか。」と、そのことばかり考えていた。

いっしょに遊んでくれたみなさん。ありがとうございました。

ゴアギル、アーリアン、サンキューベリーマッチ♪ ボン・シャンカール!