宮本輝「蛍川・泥の河」感想 | リタイアライフのつぶやき

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65才でサラリーマン生活からリタイア。さて、これから何をしていこうか。ブログでつぶやきながら日常生活を報告。参考になれば幸いです。

自宅の本棚を覗くと宮本輝の本がありました。

「蛍川・泥の河」です。まだ読んでないようでした。

「蛍川・泥の河」は、宮本輝の「泥の河」1977年第13回太宰治賞、「蛍川」」1978年第78回芥川賞の作品です。

本の解説には以下のことが書かれてます。

「戦争の傷跡を残す大阪で、河の畔に住む少年と廓舟に暮らす姉弟との短い交友を描く太宰治賞受賞作「泥の河」。

ようやく雪雲のはれる北陸富山の春から夏への季節の移ろいのなかに、落魄した父の死、友の事故、淡い初恋を描き、蛍の大群のあやなす妖光に生死を超えた命の輝きをみる芥川賞受賞作「蛍川」。

幼年期と思春期のふたつの視線で、二筋の川面に映る人の世の哀歓をとらえた名作。」とあります。

「泥の河」の舞台は、昭和30年の大阪で、作者自身の幼少期をモチーフにした作品です。昭和22年生まれの作者が8歳で主人公の年齢と符合します。

内容の概略は「鉄くずを満載した馬車が橋を上り切れず後ろで押していた男が下敷きになり死んでいくシーンから始まります。

続いて突然主人公の前に現れた舟は、郭船であった。舟を利用した一種の売春でした。

その中で暮らす二人の姉弟と親しくなります。二人は、学校には行ってない。男子の共通の話題は、お化けみたいな大きな鯉でした。

主人公は、なぜか、姉弟の母親の傍に座っていたかったのでした。友達として主人公の家(食堂)に招いたりしたが、舟は、2ケ月も同じ場所に留まることはできず、その河畔から消えようとしていた。

舟を曳くポンポンを追いかけお化け鯉がぴったりくっついている事を知らせるのでした。」

昭和30年ころの時代は、このような売春形態があり、生活も相当貧しかったと想定されます。でも、その当時の親は、友達の親が売春を生業にしていても自分の子供に「付き合うな」と言わないのです。

作者は、繊細な文章表現で風景や人物の表情を巧みに表していきます。全体的に作者のやさしさが伝わる90頁の短編です。

一方「蛍川」の舞台は、昭和37年3月末の富山から始まる。「父(重竜)は、妻(春枝)がいるにもかかわらず、別の女性(千代)に子供ができたため妻と離婚し、竜夫を生んだ。

子供を捨ててまでも夫と別れてきた女が、妻を捨てても子供の親になりたいという男のもとに嫁いだのである。

竜夫は、14歳で中学2年生。好きな子は、辻沢英子、でライバルは、関根圭太。ある日、父は、脳溢血で倒れ入院する。

家は、借金だらけで借金取りが押し寄せる。英子とのライバルで親友の関根圭太が釣りに行き事故死する。英子に銀蔵爺さんと一緒に蛍狩りに行こうと声かける。

父が闘病生活後亡くなる。二人の来客があり、一人は千代の兄の喜三郎で大阪で飲食店を経営している。もう一人は、春枝であった。喜三郎は、二人を大阪に来ることを勧めた。最後に、銀蔵、竜夫、英子、千代の4人で蛍狩りにでかけた。蛍は中々現れない。千代はもし蛍の大群が現れたら大阪に行くとに賭けた。

大群が現れた。作者の文章を借りると「はかりしれない沈黙と死臭孕みながら光の澱と化し、天空へ天空へと光彩をぼかしながら冷たい光の粉状になって舞い上がっていた」ということになります。千代の耳には、三味線の音が聞こえた。」で終わります。

蛍で光っているのがオスです。メスは草や木の葉にじっととまって、小さな光を出しています。光り方には、プロポーズのための光、刺激された時の光、敵を驚かせるための光の3種類あると言われています。この小説では、新しい生命のための光としています。一方で終わりともしています。少年は、蛍の輝きに非常に感動します。14歳の多感な少年が体験する親友および父の死と淡い初恋と出生の秘密も描いています。

作者の少年期のことを書いたのかと思いました。それにしても、風景を描く巧みな文章は、名作「錦繍」を思い出しました。

最後までご覧になりありがとうございます。

 

 

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