ぼく、ロンです。






江國香織さんの短編集




『ぬるい眠り』
新潮文庫


その中の第一話
『ラブ・ミー・テンダー』
(初出「小説NON」1989年12月号)
こんなお話です。


エルヴィス・プレスリーを熱愛する70になる母が、父と離婚をするという。

エルヴィスが毎晩電話をくれるから、彼とやっていくよと。

エルヴィスは電話でまず愛の言葉を囁き、ラブ・ミー・テンダーを歌うという。


様子を見に行った主人公(娘)が
その夜に見たものは


『大通りに出たところで、私は思わず車を停めた。ぽっかりと明るい電話ボックスで、父が電話をしているのだ。(略)大きなラジカセを抱えて。』(P.19より)



くすくす笑いたいのか
ほろりと泣きたいのか、が
よく分からなくなる結末だと
ママは言います。







それにしても、なぜ突然

「エルヴィス・プレスリー?」


それにはこんなわけがあるのです。


🐈 🐈 🐈


1947年(亥年)生まれのママの母様が
50余年ぶり
高校時代のお友達(フランス在住、一時帰国中)
から電話があり

上野で会うと言う。


「〇〇ちゃんがいなかったら、今の私はいない」
(〇〇ちゃんはママの母様)

が、そのお友達Sさんの言葉だそうだ。






現在76才の彼女たちが
広島のとある女子校の学生だった頃


Sさんはエルヴィス・プレスリーが大好きで
彼ゆかりの地
テネシー州メンフィスに行きたい。


そこで現地の新聞社の住所を調べてきて
ここに手紙を書いてみたらと勧めたのが

ぼくのママの母様だったそうだ。


手紙を書き投函したところ

なんと現地の新聞社から
受け入れてくれるファミリーがあると
返事が来たという。


Sさんは高校の卒業とともに
メンフィスへ行き
そこで3年間過ごし

その後フランス人の男性と結婚し
以後、フランスで暮らしているという。







Sさんに、ぜひ会ってみたい。

ママもその日
上野駅公園改札口に向かいます。



50余年ぶりの再会のとき


改札口にて
ひしと抱き合うふたり。


「変わらないね」
「すぐに分かったね」

とお互い言い合っています。


変わらない?それはちょっと、、、
とママが思ったことは内緒です。



精養軒に場所を移し
ふわふわ卵のオムライスを食べながら


「手紙の返事が来てびっくりしたね」とか
「〇〇先生、覚えてる?よく怒られたね」とか

それこそガールズトークを繰り広げる
Sさんと母様。


それを微笑ましく感じつつ
英語でコミュニケーションをはかる
同席のSさんの旦那様とぼくのママ。


とても素敵な旦那様なのだそうですが

You don't look like Elvis Presley 

という言葉をママが飲みこんだことも内緒です。








今ママのアルバムには
輝くばかりの笑顔の
Sさんとご主人、ママの母様の写真があります。


それはほんとうに
輝くばかりの笑顔の3人の写真なのです。


ママは彼らの美しい人生の軌跡に
尊敬の念を感じざるをえないそうです。