3『幻の旅路』より ジャン・ピェールと  | 『幻の旅路』大湾節子のブログ

3『幻の旅路』より ジャン・ピェールと 

『パリでジャン・ピェールに再会する 』

1980年9月26日 
パリ   
 
ジャン・ピェールに電話をして、ホテルに来てもらう。
彼はパリ生まれのパリ育ちだから、アメリ通り8と住所をいっただけで、すぐ分かった。

しばらくして、美しい笑顔を浮かべて彼が現れた。
どれどれと、まずはホテルの部屋の点検である。

窓際に行って、エッフェル塔を屋根越しに見て、
「うん、なかなかいいね。いかにもパリ的で」
と、オーケーが出る。
彼は豪華絢爛(ごうかけんらん)なだけで、趣(おもむき)のないホテルは大嫌いなのだ。

一年振りの再会。
相変わらず、保育園でパートで働いているという。
自分がどういう人間で、何を欲しているか知っていて、経済的にきつくても書き物以外のことは一切しない。

三年前、ローマの路上で出会った時は、こんなに芯(しん)が通っている若者だとは思わなかった。

今回も穴場の美術館を教えてもらう。
ひっそりと奥に引っ込んで、旅行者があまり訪れないような所にあるモロー美術館、それにカルナバレ美術館がいいと勧めてくれる。

フランスの田舎を見たければ、プロバンス地方のアプトの村。
中世の町を見たければ、イタリアのシエナと地図を広げて、数カ所に印をつけてくれる。
今回行けなくても、将来必ず行こう。
(*注1)

夜になって、エッフェル塔を背に打ち上げ花火が上がる。
何を祝っているのか、パリジャンの彼に聞いてもはっきりしない。

真っ黒な夜空に色とりどりの大輪の花がいくつも咲いては、一瞬のうちに消えていった。
はかない花火を見ながら、私たちが生きていくことも花火のようだと思った。

美しい花火をジャン・ピェールと一緒にパリの小さなホテルの窓から見た忘れられない夜だった。

(*注1)
シエナ:1980年、この旅の後半、訪れる。
アプト:1982年、ディーニュから訪れる。

『幻の旅路』第3章 1980年、第三回目の旅 (P90—91)より引用 一部ブログ用

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*『幻の旅路』
33歳から39歳までの7年間。
ヨーロッパの旅の日記です。
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猫と本しか持っていなかった夫との出会いの話。
(1987年2月—1989年12月)
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