1 人生色々、人生案内の回答も色々 | 『幻の旅路』大湾節子のブログ

1 人生色々、人生案内の回答も色々

 先日の人生案内の名回答には思わず笑ってしまった。
 投稿主は60代後半の主婦。同年輩の夫が退職した後、夫婦の会話が全くない。趣味も寝室も別。これでは結婚している意味がない。離婚を考えているというのだ。

 え、これは私たちのことを言っているのではないのと、ぎょっとする。
 もともと無口の夫が、最近ますます無口になった。こちらから話さないと、まったく会話がない。と言っても、私が、興味があることは、彼は全然関心がないから、話したところでと、こちらもつい黙ってしまう。
 この2ヶ月間、毎日庭に出て、庭仕事をする。小さな庭だから、庭が綺麗になったのはすぐ気がつくはずなのに、夫は素通りである。
 といっても、私も彼の本やDVDのコレクションには興味がない。確かに高尚な本が本棚や押し入れにずらりと並んでいるが、一生読むチャンスもない本をこんな集めてと呆れている。
 彼の庭に対する無関心さは、私が、彼の蔵書やDVDを見て、「素晴らしいコレクションだ」と感心しないのと、同じ反応かもしれない。

 ところで、私はひどく暑がりで、夏は、ベッドルームのドワが閉っていると、汗をかいてパジャマを5、6回着替えないといけない。
 ところが夫は違う。ひどく痩せていて、夏でも寒い寒いとカーディガンをひっかけている。扇風機も車の冷房も自分の方には風が当たらないようにする。
 寝るときは、夏でも冬でも厚い毛布をかけ、ベッドルームのドワをきちんと閉めないと寝られない。毎日8時間熟睡しないと体が持たないと言って、10時前には床に就く。
 一方、私は、夜は痛い脚を上げて、ソファーに腰かけ、面白くもないテレビのチャンネルをガチャガチャ回して時間を潰す。そして、12時頃になって、やっと寝る準備に取りかかる。
 今月、彼は自分のベッドと娘のベッドとを置き換えた。そして、隣の小さいベッドルームのドワをしっかり閉めて一人で寝ている。これだと、夜中、邪魔されずに熟睡できると言うのだ。

 今回の人生案内の回答者は、1932年生まれの女性評論家。歯に衣着せぬ言い方でズバリと言う女史で、世間からひどく批判されることもあるらしい。
 それにしても、やはり年の功より、亀の甲。彼女は私より10年以上も人生経験が多いから、人生の読みも深い。彼女のユーモアのある回答には、なるほどと頷いてしまった。

 まず、シルバーエイジの夫婦の離婚は勧めませんとはっきりおっしゃる。理由は経済的なこと。二人で住んでいるから、安上がりなのです。と、当たり前のことをおっしゃる。この歳になって、年金生活、一人で住んだら大変ですよというのだ。
 それに、ここが彼女のアドバイスの面白いところだ。夫を「無料の留守番がいて便利と思ったらいい」と言うのだ。遠慮せず、いつでも頼める無料の留守番役が家にいるとは、これほど便利なことはない。
 つまり、はっきり言ったら、年取った夫にあまり期待しなさんなということだ。

 相手があって悩みごとを相談する人は、人間関係は「こうであるべき」という、ある基準を持っていることが多い。
 つまり嫁はこうあるべき。夫はこうあるべき。親子関係はこうあるべき。義母は、同僚は、友人は、隣人はと、自分が期待したように相手が行動してくれないので、文句がでる。
 あるいは、相手がそのレベルに達していないと、「彼はこうなのです」「彼女は、ああなのです」と、いろいろ悩みを訴える。そして、最後に「どうぞ私の心の持ちようを教えて下さい」と、やや下でに出て、回答者の先生のご指導をお願いする。

 実は、投稿した人は、たいてい、回答者から「そんな事情ですか。それでは、あなたも大変でしょうね」と、同意を求めていることが多い。
 そして、今回のように「離婚も考えています」と言うと、「そうですよね。そんなご主人なら離婚してもいいでしょう」と言ってもらいたいのに、回答者の先生は、そんな回答は与えない。
 つまり、相手に期待しないで、もっと理想や基準を下げ、自分の考え方を変えなさいという忠告にいつも落ち着く。

 今回の回答も、「あなた自身の興味・関心を外に広げてください。あなたが楽しそうに生きていれば、夫君も後を追ってくるかもしれません。」と終わっている。
 この答えは、「夫君」の代わりに、「義嫁」、「同僚」、「友人」という語にも置き換えられる。
とにかく自分を磨いたら、嫌な相手でも近づいて来るというのだ。そんなに簡単にいくかどうか。
 まあ、他人を変えるのは不可能だが、自分を変えることは可能だ。実際、実行することは難しいが、確かに賢明な回答だと思う。

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 今回の回答者は、樋口恵子さん。日本で大活躍している有名な評論家らしい。東京家政大学名誉教授で、2003年、東京都知事選挙に出馬とある。
 著書も多く、「定年夫は産業廃棄物(粗大ゴミ、濡れ落葉とも)」と表現して批判されると、書いてある。
 新聞の人生案内では、そこまできつい表現は使わなかったが、彼女の言いたいことは、女性と男性とは違うし、定年の夫にもともと期待しなければ、奥さんのイライラも出てこないということなのだろう。なるほど、私も彼女のアドバイスに耳を貸そう。

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*世の中には幸も不幸もない。ただ、考え方でどうにもなるのだ。
ウィリアム・シェイクスピア (1564-1616) 英詩人、劇作家。

*私たちは他人を愛して生涯の半分を過ごし、 他人の文句を言って残りの半分を過ごす。
*悪口は意地悪な人による慰めである。
ジョセフ・ジュベール (1754-1824) 仏思想家・哲学者・随筆家

*今から一年も経てば、私の現在の悩みなど、およそくだらないものに見えることだろう。
*もしある人が自分の不幸な出来事について話したら、そこにはなにか楽しんでいるものがあると思って差し支えない。なぜならば、本当にみじめさだけしかないとしたら、その人はそんなことを口にしないだろうから。
サミュエル・ジョンソン (1709-1784)英詩人・批評家

*人生は、ケチな心配事ばかりしているのには短すぎる。
チャールズ・キングスリー (Charles Kingsley) (1819-1875) 英作家

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