私は一体彼の何を愛しているのか。そもそも愛なんて大それたものなのか、分からない。ただ、思うだけで心が安らぐ。迷っている私を優しく包む。きっと彼は何も言わないだろう。私を愛さない代わりに、責めることもしない。でも、私はこっそり心を縛られ安心する。その声は私を縛る言葉など話してくれないけど、その目に私は自分が欲しい言葉を探すことができる。私はセルフで彼の愛を受け取ることができる。私らしいと笑うだろうか?呆れるだろうか?
人を愛することは案外簡単だ。夜肌が触れ合えば、それはもう愛する理由になってしまう。でも、見つけてからというもの私はなぜか彼の愛を感じようと必死にならなければいけない。まるで、愛されていなければ会う理由がないかのように。私は私に彼に会う理由を説明しなければいけないみたいだ。
例えば、彼が別の誰かを思って聞いた歌をどうやって愛おしく思えたりするのだろう。例えば、SEXの為だけに呼び出されているのにどうしたらウキウキ出かけて行ったりできるのだろう。そんな馬鹿みたいなことできるはずがない。くだらないし、惨めだ。きっとそんなことする女はもうこの世にいないだろう。
夏の夜道を、愛する人と歩けたらどんなに幸せだろう。好きなアイスがないからと、何軒もコンビニをはしごしたりする。そんな幸せな過ごし方があるだろうか。夏も散歩も私は大好きで、だからずっとそんな風に歩きたいと思っていた。霧が出て、髪の毛が真っ白になった。まるで魔法みたいに、時が止まったみたいに。
君の嫌なところを見つけたら嬉しかった。これ以上良いところがあったら困ると思ったから。私とは釣り合わないと諦めてしまいそうになるから。良いところがない方が嬉しい。服はダサい方がいい。お金持ちだったら困る、ますます釣り合わなくなってしまうじゃない。そう思ってしまう事が、私が恋するときの特徴だと私は嫌になるくらい知っている。
夏も散歩も嫌いだと言った。
暑いのが苦手で、長く歩くのが嫌いだから散歩なんて彼の概念にないかもしれない。もしアイスの為にコンビニをはしごしようなんて言ったら先に帰ってしまうだろう。なんて情緒のないつまらない男だろう。
本を読む人が好きだ。お酒を飲みながら本の感想なんて話しあったりして。彼の愛する本を借りて全然理解できなくてでもちゃんと最後まで読む。全然解らなかった、と正直に打ち明けて私に呆れて欲しいと思う。私はそんな関係が理想なのだ。そんな風に生きたいと思う。きっと生きていけるはずだ。
手を繋ぎたい、と思った。ただ手を繋ぎたい。
私を愛しているかなんてどうでもいい。恋をしていた。
その声は、いつ私を傷つけるかも分からないのにこの世の音で一番心地が良く、私はもうその声以外には何もいらないと思う。頭の中で彼は何度も私の名前を呼ぶ。私は聞くべき新しい音楽が見つけられず仕方なくスピッツを聴く。私が今一番聞きたいのは今君が一番聞きたい音楽だ。
でも私はそれを知ることが出来ない。だから突然CMとかで流れてくる音楽がたまたま私の気持ちをそのまま歌っているような歌詞だったりして、一瞬で心が奪われてしまえばいいのになと思う。