私達はマレーシア料理を出すいつもの店、SKPで出会った。
そのお店は朝の7時まで営業している店で、
彼をはじめまわりの飲食店の人達が営業を終えて飲みに来る店だった。
行けば必ず誰かしら知った顔に会えた。
その中でも彼は「なんとなく知っている奴」その程度の存在だった。
だから一目惚れではない。
日本人なのにジョニーと呼ばれていた彼は背が高く、
韓国人の様な顔をしていて、私は最初彼を韓国人だと思っていた。
私にとって彼は大勢のうちの一人だった。
特別な人になる予感など、全くしなかった。
でもある日の夜、私達は座敷のテーブルで、
それぞれの友達たちと隣同士で飲んでいた。
私の友達はみんな先に帰って行ったけど、
私はまだ飲み足りなくて一人残る事になった。
彼は「一緒に飲みましょう」と言った。
彼と私を含め、なんとなく知ってる面子4人で飲み直す事になった。
私は当たり前の様に彼の名前を呼んでいたから、きっとその時既に彼の名前を知っていたのだろう。だけどその夜の前に、どんな経緯で彼の名前を知ることになったのかは覚えていない。
ジョニーは何色が好き?
私の好きな色を当ててみてよー
朝の酔っ払いらしく、くだらない会話をした事を覚えてる。
私はその頃10年近く付き合っていた人と別れたばかりだった。
お互い納得して円満に別れたから、特に傷心だったという訳じゃなかったと思う。
でも確実に「何か」を失っていた。
失った穴を埋めるよにして、私は既に恋愛の対象を見つけていた。
それはそのお店で働いている男の子だった。
今から思えば、推しメンって感じのノリで騒いでいただけだったけど、
その時は真剣に恋をしているつもりだった。
だからその日もその子に会いたくて店に行った様なものなのだ。
なのに、私はあっさりとその日初めて一緒に飲んだジョニーに恋をしてしまった。
気が多いと言われればそれまでだし、実際その通りな気もする。
でも理屈ではなく、この人だ、と思った。
私たちは初めて話したのに、彼は私のことを深く理解している様な気がしたから。
始発が動き出す時間になり、皆に送られて私は電車に乗った。
あれは2012春だった。その日から今日まで、私の物語は続いている。
私は彼に見送られて電車に乗ったその日の夜から、
毎晩彼に会いたいと願う事になる。
その日から一度だって彼に会いたいと願わなかった夜はない。
だけど私はその時点で彼には地元に彼女が居る事も、彼女が居るのに近くに女が居る事も知っていた。
今考えても不思議な事だけど、
私はその夜生まれてしまった恋を諦めようとは全然思わなかった。
むしろ育てようとした。
彼女が居る事も、他に浮気相手が居る事も、気にしなかった。
見えなかったのかもしれない。
ただ会いたいと思う気持ちに逆らう事は出来なかった。
それまでも頻繁に飲みに出ていたけど、更に頻繁に飲みに出る様になった。
ただ会いたかった。会って話しをしたかった。
あれから8年が経った。
彼は大学生だった。
私は27歳だった。
私は今でも彼に会いたいと思う。
会って話がしたいと思う。
それはまるで恋に落ちたあの夜とほとんど何も変わらない想いの様に思える。
でもそんなはずはない。
そんなはずないでしょ、と34歳の私は言う。
そんな事はきっと誰も認めてくれないだろう。