先生と私⑤ | ドット ラ ロマンティラ

ドット ラ ロマンティラ

~ dot la romanthira ~

新しく出来たばかりの会社で、事務員さんがいないということで、
経理も総務も行う事務仕事を初体験。

 

そこでも役立つ洋裁の試験体験。

 

洋裁の試験は時間内に仕上げなくてはいけないので、とにかく時間との勝負。

のんびり楽しく作るなら、まずは身頃を作って、袖を作って、パーツごとに完成させればいいのですが、

時間短縮の為には、一度に縫える所を一気に縫うのです。

 

身頃も、襟も、袖も、縫える所を一気に縫う。
縫ったら、アイロンで割るのが必須なので、今度は一気にアイロン。

 

次にまた縫える所を一気に縫う。これが第2ミシン。

 

第1ミシン、第2ミシンと呼んで、とにかくスピーディーに一度に全体を進めていきます。

 

それが染み付いていたので、事務仕事のやり方も、まずは全体を把握して、この仕事から、
そして次はこれで、なんてやり方をしていましたらね、

 

元々9時~5時の契約で入ったのですが(自信がなかったので、またバイトとして)
一年経った頃には、4時には終わるようになってしまいました。
(すると、4時に帰っていいよ、という事になりました)

 

そして、その次の年は更に短縮。あれ?やばくね?3時で終わっちゃいそう・・・。
(私、3時で帰るのか!? 時間給なんですけどーっ!)

危機感を抱いた私は夜間に簿記の資格を取りに行って、派遣会社に登録してステップアップ。

 


そんなこんなしている間でも、必ず先生に会う日があります。


それは、先生のお誕生日。

 

学校のお金持ち軍団の生徒さんは、先生にお中元お歳暮を送っていて、しかも高級品。

えーっと、私、あんまりお金ないから、年に一回でごめんさい、でも感謝の印!と思い、
学校に通っている時から、先生のお誕生日に花を持って行っていました。

 

先生にショボイ花は似合わないので、そこは奮発して、花屋さんにまず用途を聞かれた時、

「ファッションの先生で、髪が赤くて、原色の服をよく着ていて、ゴージャスで~」と話すと、


なんだかすごい金色に塗られた枝みたいなのとか、色んなものが刺さった

すんごいアレンジメントが出来上がって、

 

地元の駅前のお花屋さんで、毎年、ファッションの先生のお誕生日で~、ゴージャスな先生で~
と言うので、店長さんも覚えてくれて、毎年、張り切ってアレンジメントを作ってくれました。

 

プレゼントは、先生はもう高級品には慣れっこなので、絶対もらわないような、
一万円札の柄がプリントされたタオルとか、一万円札がプリントされたメモ帳とか、
(本当なら本物の札を献上したかったけれど)

くだらないグッズを持っていっていたのですが、先生は爆笑してくれました。

 

事務職になってからも、先生のお誕生日には必ず行っていて、年に一回、先生に会える日。
まぁ、別にいつでも他の日に遊びにいけばいいのですが、準備が必要なのです。

 

まず、「先生~!」と教室のドアを開けると、「サリーさん!」と先生が来る。
そして、私の服装の全身チェック。


服の出来栄え、デザインを上から下まで見るのです。緊張~。

なので、先生の所に行く時は、仕立てのよく出来た一張羅をまず作らないと。

 

お花を喜んでくれて、必ず「縫ってるの?」と聞かれて、そして先生は「お土産」といって
生地をくれます。(ガラス棚にある高級品!)

 

自分の仕事前に行っていたので、短い時間ですが、先生に会う楽しみな日。

 

10年くらい前だったか、アレンジメントのお花にガス入りの風船が付いていて、
箱を開けると、ふわ~っとまず風船が飛び出てくる、というのが流行っていて、
面白いので、駅前の花屋さんではなく、ネットで注文して、プレゼントだけ持って先生の所を訪ねると、

 

「サリーさん!、箱を開けたらね!」

 

興奮気味に、ダンボールの箱を開ける所から、どう風船が出てきたかを実演してくれて、
とても無邪気に喜んでくれました。

 

派遣の仕事になってからは、びっくりするほどお給料もよかったので、

先生のプレゼント選びも楽しみでした。

 

そして先生の誕生日が近づいたある日、先生のアシスタントの人から連絡がありました。


「先生、学校辞めたの。もうすぐ先生のお誕生日だから、サリーさん、来るかと思って。」

 

えぇっ!!
先生は、ずっと先生をしていると思っていた!

 

でも、よく考えれば、元気で背筋もしゃんとして、オシャレで若く見えても、80歳近かった。

 

学校の近くに住んでいた家も引っ越したとの事で、アシスタントの人が新しい先生の家に

連れて行ってくれました。

 

部屋には裁断台、ミシンがデーンと置いてあり、近くに生徒さんがいて、

先生の家に習いに来たりしているそう。

やっぱり先生だ。

 

その年からは、先生の新しい家の方にお花を贈ったり、アシスタントの人と一緒に遊びに行ったり。


そうやって毎年、過ごしてきました。

 

そして、この夏、アシスタントの人から「先生が亡くなった」という電話を受けました。