詐欺の被害は、突然始まるものではない。
最初は、ごく自然なやり取りから始まる。
何気ない会話、気遣いのある言葉、
そして少しずつ築かれていく信頼関係。
相手は時間をかけて距離を縮め、
こちらの心を開かせていく。
やがて――
「あなたが私を信じてくれるなら」
「これはチャンスだ」
「あなたのためを思っている」
そんな言葉が、自然に入り込んでくる。
その頃にはもう、
相手の言葉を疑うよりも、信じたい気持ちのほうが強くなっている。
違和感がなかったわけではない。
けれどそれは、
「考えすぎかもしれない」
「この人は違うかもしれない」
そうやって自分の中で打ち消してしまう程度のものだった。
そして気づいた時には、
大切なものを失っている。
詐欺は、力づくで奪うものではない。
信頼させ、安心させ、
自分の意思で差し出させる。
それが詐欺の本質である。
人は誰でも、何かを求めている。
信じたい、取り戻したい、
誰かに大切にされたい――
そうした気持ちは、特別なものではない。
欲があること自体、人間として自然で、ごく普通のことだ。
人は、何かを求めるからこそ生きている。
だからこそ、そこを利用される。
「欲があったから騙された」――そんな単純な言葉で言い表せるものではない。
人として当たり前の感情が、
巧妙に使われただけである。
問題は、自分の弱さではなく、
その構造を知らなかったことにある。
この流れを知ることが、
同じ被害を防ぐ力になる。
私も、この流れの中にいた。
もし今、同じような違和感を感じている人がいるなら、
どうかその感覚を無視しないでほしい。
小さな違和感ほど、後になって大きな意味を持つことがある。
それは、自分を守るための大切なサインだから。
