さてカラヴァッジョ展、もう今週末で終わりですよ。当初3ヶ月ってけっこう長いと思ってたんですが、あっという間でした。しばしの(つまりいつの日か、またイタリアに行くまでの)お別れ、と思って会期末の大混雑覚悟でこの週末に行ってきたんですが・・・ま、例によって遅い時間だったんですが、思ったほどではなかったですね。(チケット売り場に行列整理用の柵とか出てたから一時はそれなりに混んだんでしょうが。)
てことは・・・まだ見てない方、まだ手遅れじゃない(笑)ってことです(最終週はもう手遅れ状態だった展覧会ありましたよね、最近)。未見の方、ぜひぜひお運びあるべし。
 
 
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          日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展
CARAVAGGIO and his Time: Friends, Rivals, and Enemies
国立西洋美術館(上野公園)         ~6月12日(日)
 
展示構成は
 I 風俗画:占い、酒場、音楽 ― II 風俗画:五感 ― III 静物 ― IV 肖像 ― V
         ― VI 斬首 ― VII 聖母と聖人の新たな図像 ― ミニ・セクション:エッケ・ホモ
と、年代順ではなく、画題別の構成。ま、多いとはいってもカラヴァッジョ本人作の出品は11点なので、年代順に並べてカラヴァッジョの人生を追えるって程ではないからかなと思うんですが、いや、別に水増し方式だなんて言いませんよ(笑)。なにしろ現存する真筆が全体でも60点強なんだそうで、大変な出品数といえます。
 
つまり各セクション冒頭に西洋美術史上最大の鬼才の作を置き、その後にフォロワー衆(カラヴァジェスキ)を並べるという、いわゆる公開処刑的なwアレなんですが、ま、だからこそ「やっぱりカラヴァッジョは凄い、他はダメだ」みたいな見方で歩いていてもあまり盛り上がらないわけで、カラヴァッジョはカラヴァッジョとして楽しみつつ、「他がどれだけ頑張っているか」みたいな理由なき超・上から目線の(^^;プラス評価で見て回るのがいいんでしょうね。
いや、あるいは他は全く目もくれず、カラヴァッジョだけ見て回るってのもまあ、アリかもです。実際、私も2回目に行ったときは時間が無かったんでカラヴァッジョ以外はほぼ飛ばしてました(^^; カラヴァッジョって、なにか他の作家とは隔絶した「気」があるので、一緒に見ても結局は全く別々に認識することになってしまう感じがあって。
時間があれば色々感想を申し上げるところですが、時間もないのでとりあえず一番シビレたものをば。
 
 
  「ナルキッソス」
ナルシシズムといえば自己愛なわけですが、物語のナルキッソスは単なる“自分大好き人間”なのではなくて(笑)、水に映った自分自身の虚像に恋焦がれた結果、当然それは満たされることなく死んでしまうわけで、ここでのその病み衰え感と、にもかかわらず虚像しか目に入らない集中と陶酔感、その震えるような蕩けるような感覚に、シビレる。です。
 
 
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 「バッカス」
生気あふれる静物と性気あふれる(笑)男。この何かふてぶてしい、しかも妙に生々しくエロい男性像ってのはカラヴァッジョの特徴の一つですよね。これはまた自分の帯に手を掛けちゃって・・・(^^; 果物の質感やワイングラス・フィアスコの薄玻璃感、さざ波立つワインなんかは実に繊細な表現なんですが。既に描き手と(男性同士で)デキちゃって、早くも図々しくなってるみたいな、人間的には繊細さゼロ、みたいな感じ。このキツい対比が最高。
カラヴァッジョの風俗画としては、これはなんといっても代表作ですね。「ウフィツィこれ貸してくれましたかーっ」ていう驚きがあります。
 
 
イメージ 2 「エマオの晩餐」
“カッコいいカラヴァッジョ”みたいな一群てありますよね。特に代表的なものとしてはローマのサン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会の「聖マタイの招命」とか、あとルーアンの「キリストの鞭打ち」とか、カンザス・シティにある「洗礼者聖ヨハネ」とか(実物見たことないですが)。
いかにもカラヴァッジョらしい、画面大半が闇に沈みつつ、強烈な照明に人物の表情が陰影濃く浮かぶ、この感じ。
同じ「エマオの晩餐」で今回来てない方のヤツ(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)はこれほど暗くなくて、キリストが・・・ちょっと「バッカス」の男と似た感じなんですよね。今回来てる方がキリスト自体はカッコいい。でもイエスの涜聖的なまでの生々しさ、老人のリアルさ、ストップモーションで切り取ったようなシャープさなど、あっちはあっちでカラヴァッジョぽさがストレートに出てる感じも、ある。カッコいいカラヴァッジョもドライなカラヴァッジョもみんなちがって、みんないい。
 
 
「メドゥーサ」
これも強烈。ただでさえリアルの絵なのに、盾の球面に描かれているから妙な立体感があって。昔カラヴァッジョの画集を買った時、これとかイエスの腹の傷に指を突っ込んでる「聖トマの懐疑」とかさんざん見て寝たらすごい怖い夢を見たことがあります(笑)。
これ、有名なのは現在ウフィツィが所蔵してる方のヴァージョンですよね。これは・・・個人蔵。
  →ウフィツィ・ヴァージョン。こちらは今回来てません。
今回出展されている個人蔵ヴァージョンは、X線で調べたところ下書きの跡があったんだそうで、こちらが先行作で、ウフィツィの方が後から描かれたとみなすことが出来るとのこと。・・・ほう。
 
 
 イメージ 3 「洗礼者聖ヨハネ」
これもカッコよいっすなあ。顔が影なんですよね。こういうのもカラヴァッジョから始まるんですかね?
・・・スレンダーな割にお腹のお肉の余り具合が微妙なんですが。
 
 
最後のコーナーは(やや別の意味でシビレるやつですけど)、「エッケ・ホモ」を主題としたカラヴァッジョとチゴリの2点を並べたミニ・セクション。これは・・・ちょっと前までは偽作の可能性が高いとされていたやつですね。
X線による検査で構図を変更した形跡が見つかったんだそうで→そりゃ模写なら構図は検討の余地が無いだろう→だからこれは真作、という論理には、まあ文句のつけようがないんですけど・・・。でも、なんかな・・・。偽作のままでもよかったというか(^^;
チゴリはカラヴァッジョと比べるとまあ普通なんですけど、結構良い。コレに限っては「カラヴァッジョ作」より好き。
 
 
資料編
あと、「カラヴァッジョ展」として面白いのが、巨匠の数々の“悪行”を証拠立てる裁判記録、取調調書の展示。パネルとかじゃなく、実物展示してるんだから凄いですよね。アーティチョーク事件とか。食堂で出てきたアーティチョーク(カルチョーフィ)について店員に「これはバターで炒めたの?それともオリーブオイルで炒めたの?」と訊いたら「匂いをかいだら分かるでしょ」といわれて激昂して皿を投げつけて怪我をさせた、という。
ちなみに私はローマに行った際、出てきたカルチョーフィの中の方がまだ冷たかった事件があります。残念ながら絵は下手なので皿は投げつけませんでした(笑)。
ともかく筆を持たなければ単なるチンピラかゴロツキといってよいこのお方、まー何度も逮捕されてるんですよね。そしてついには殺人・・・・。
 
 
逃亡先のマルタでも素晴らしい仕事を残しつつ、またしても暴力沙汰で命を狙われるハメになり、結局最期は“野垂れ死に”といっていいこの巨匠、芸術家としては並ぶものなき栄光に包まれながら、作品も人生も、何もかもがコントラスト・・・。
 
そんな光と影の天才画家の強烈なインパクトを十分に感じられる特別展は今週末6/12(日)まで。お見逃しなく。