「本来、荒川の位置には俺が居たからな」
「位置、だと?」
「あの赤いアレ、アレを削除するのは俺の仕事だ。たとえば……」
 そう言って、サムライは後ろに振り返った。と、同時に抜刀する。空を切り裂く音がし、その後を追うように湿った音が響く。
 サムライの目の前には、あの赤いスライム状の何かが落ちている。しかしそれは切れたままで修復されず、段々と固まっていった。
 俺のほうを振り向きながら、サムライは言う。
「この通りだ。こいつらは、今のところこいつでしか切れない」
「……何故その刀は、切れるのだ」
「こいつのおかげ」
 そう言うと、彼はヒュッと刀を振った。透明な液体が、刃先をつたい、宙へと散っていく。雫はそのまま床に落ち、瓦礫の上に染みを作った。
 何故だろう、その染みに対する恐怖感が浮かぶ。
 恐れに俺は、サムライの顔を見上げた。
「この液体が、こいつらを固形化させる」
「なんだ、それは」
「モスコミュール、というかアルコール全般だな。俺のは特別、モスコミュールだ」
 誇らしげな顔をするサムライを見て、俺は心底疲れた。
 先ほどまで必死で戦っていたあの赤い奴の弱点は、なんと手近なところにあるアルコールだった。それなら、すぐ側の冷蔵庫の中にたくさん入っている。それで戦えたはずなのに。
 ……しかし、何故モスコミュールなんだ?
「それで、荒川が何か変なことを言っているのを聞かなかったか?」
「変なことだと」
「そう、変なこと。たとえば『ハイパーマグナムショッキングピンキレーザー』とか『エレクトリカルムサシソードセカンド』とか、やたらカタカナの多い言葉だな」
 ……。
 センスが無い。
 俺は記憶の中を探った。あの青年が現れてから、ケータイに荒川からかかってきた。それに答えて、あの扉の前まで連れて行った。そこで二、三話をして……。
「……スーパー・エレクトリック・ディバイン・デストロイ-弐式改」
「愛も変わらず長ったらしい」
「この言葉がどうかしたのか?」
「館長さん、あなたも荒川と長いと聞いているが。だったら、あの男が何かするときに決まってやる癖、覚えてはいないか?」
 思い出す。
 そういえば、前に博物館の蔵書整理をしているとき、奇声を上げていた。絵をずらすとき、センスの無い技名を叫んでいた。
 そういえば、あいつは何かをするたびに叫ぶ癖があった。
 そういえば、そう思えてきた。
 そういえば、そうだったのだろう。
「そう、奴は何かをするたびに技名を叫ぶ。そして館長さん、あなたが来たとき荒川はいなかった。その代わりに居たのは赤い奴ら」
 サムライは、まるで推理ドラマかのように語りだす。
「赤い奴らは、その後俺が来た時、増殖しつつすらあった。そのことから、あなたは赤いのを殺せたわけではない。にもかかわらず、荒川のような結果にならないでここに存在している」
 そういえばそうだ。
 そういえば、何故俺はここに居るのだ?
 そういえば、荒川はどこに行ったのだ。
「それって、おかしくないか?」
 サムライの右手には、抜き身の刀。その刃先が、そっと俺の喉元に向けられた。
「合理的な説明。可能性一、あなたは荒川と同じ運命をたどった。可能性二、先天的に何らかの赤い奴らへの対抗を持っていた」
 しかし何故だろうか、俺はその刀に恐怖を覚えなかった。それどころか、それを得ようとすら思えてくる。
「非合理的な説明。可能性一、あなたは赤い奴らにとって見方だった。可能性二、あなたは最強だった」
 手を伸ばし……。
「答えは……可能性その一、あなたは荒川と同じ運命をたどった!」
 その手は、切り飛ばされた。


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