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「よかろう、ついてくるがいい」
 ぶっちゃけて言おう。
 この爺の言いたいことがさっぱりわからん。
 まず俺がこの博物館に来た理由はただ一つ、あのサムライさんの言った言葉、金華猫に導かれたからだ。それを予測している点で、この館長という男の予測はあっている。が、それはそこまでのことだ。
 あえて言おう。
 俺はそんなもの見たいとも思わない。
 何故かって? 自分が死んでいるらしいが、俺は今俺という存在を認識している。手足が動く、それでよろしい。だから別に、そんな昔祖父と見たへんてこな猫の像なんかに興味は無いのだ。
 爺さんは勝手に前に進んでいくが、俺は無視する。そういえば喉が渇いたな、そう思っていると、ちょうどよく自販機が見つかった。そそくさと近寄ると、硬貨を居れコーラでも買う。ダイエット・コカコーラか、ペプシか……。ペプシNEXで良いや。
 ぷしゅっと、音がした。
「……ふぅ」
 渇いた喉が潤うぜ。
「何しておるんだ」
「喉が渇いたからコーラ飲んでいるだけっすけど?」
「……」
 呆れている爺さんの顔が見える。
 でも気にしない。
 少なくともこの爺さんの先ほどまでの言葉よりは、ずっと理解できる行為だと思うから。
 さて……。
「じゃ、爺さん、帰るわ」
「む」
「俺は今から家に帰らないといけないんだ」
「だが、少年、君は正義の味方を探す必要があるのではないのか?」
「別にそんなもの無いさ」
「では、金華猫は?」
「特別興味ない」
「……では何故ここに来た」
 老人は、呆れるどころか、驚いていた。
 そういえば昔、そう中学のころだ、がり勉が居た。そいつも、時々こんな顔をしていたな。勉強一辺倒、考えてばかりの奴というのはこうなるのだろうか。やはり考えるよりも行動だ。たとえ脇役であろうともね。
「なんとなく。そしてなんとなく帰る。あんたの言葉を使えば、これが俺の正義だ。大衆をどれだけミクロにすればいいかしら無いけれど、少なくとも最小単位は俺だろ? 俺の正義は、これから洞爺湖サミットが終わるまでに食い扶持つなげるための、バイト探しさ」
「洞爺湖サミット?」
「頭が腐ってるけど、やるだけ流行るカマの監督様がそう言っているのさ。さて、そーいうわけで、俺、帰るわ」
 手を振りながら、俺は踵を返す。
 そうそう、さっきの続き。俺が何故ここに来たか。答え、佐藤さん探し。時々この博物館に入っていく佐藤さんを見かけていたわけなのだ。洞爺湖サミットが終わってからと言っても、終わってからどうしたと言うのが正直な気持ち。終わった後のいつからやるのか、尋ねて置こうと思った。いまどき珍しいことに、佐藤さん、ケータイ持って居ないから、訊きに行かないといけないのだ。まったく、仕事と持ち物つりあ―――。
「だったら少年、ここで働いてはどうだ?」
「へ?」
「時給二千五百円。ちょうど今一人減俸することが決まったからな、それくらい出してやるぞ」
「ちょっと、おいおい」
「何か問題はあるか? 家からは近い、時給もそこそこ、私も君と話せる、君は仕事が見つかる。断る理由は無いだろ?」
「そりゃ無いけど……」
 胡散臭いあんたの元で働きたくありません、正直。
「では本日付で、君を我が館の案内人のバイトに任じる」
「ちょっと、俺はまだ!」
「明日の朝六時までに、ここに来るんだぞ」
 そう言って、爺さんは向こうに行ってしまった。背中に何度声をかけても、答えてはくれなかった。
 ただ佇む俺。
 ……どうしよう。これから、仕事とか……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……うん。
 まぁいいか、時給二千五百円だし。


⇒「バイザー」~「メリーさんの羊第十四章六百八十七巻」~