$Rollingcatの越境レポート。
福島のとある街に
ハハの学生時代の下宿を訪ねて、謎の旅。


アポなしで
住所を握りしめて
おまんじゅうを持って
雪をかいて


いらしゃるかしら
不審に思われないかしら
ご迷惑じゃないかしら


間違えて隣のお家を訪ねちゃったりもしたけれど
実際、当時のお家を少しだけ増改築しただけ、という、
その城下町の、温かいお父さんとお母さんがでてきて、
名を名乗っても、当然ながら「?」だけれど、
昭和何年頃に、こちらで下宿をしていた「(旧姓)◯◯の娘なのですが」
と言った途端に、
まぁ、「◯◯ちゃんの!」と、
突然に、空気がどっと緩む。


ハハの名前が「◯◯ちゃん!」と呼ばれたその瞬間から
何だか頭がトリップしたみたいに、
わたしは不思議な気持ち、
ハハの思春期が、一気に胸の中に流れ込んで来て、
涙が出そうになって
まったく初めて会った、その下宿のお父さんとお母さんに、
その頃、
一人で田舎町から出て来て、
ひっそりと学生生活を送っていたハハを、
「◯◯ちゃん」を、
大事に見てくれていてありがとうって言って、
感謝して泣きつきたいくらいの気持ちになって、
時空が逆転したような
(実際、当時のハハの年齢を、わたしは10歳以上優に越えてしまって)
何だかおかしなことになっていた。


いや、おかしなことだなぁと思ったのは、
そのお父さんとお母さんの方でしょう。


一体、おおよそ40年ぶりに、
本人でもなく
その娘…30にもなる…が、突然現れたのですから。


ぱたぱたと
昔のアルバムなんかを引っ張って来てくださって
下宿当時の、
乙女らしくぽっちゃりと、
お下げ髪なんかを結っているハハの写真が登場して
いやだハイソックス何か履いちゃってるよとか
いやだ赤いブレザーなんか着ちゃってるよとか
言いながら
わたしはそんなハハの姿をじっと見つめて
ますます
ハハをハハとしてでなく
ひとりの女性として
見るような感覚をもった。


彼女にも乙女時代があったのだという当然の美しい事実について。


いつも愛情に溢れて ゆえに 世の中の裏切りの孤独を抱えているような
詩人のようなハハについて。


わたしが当時に彼女の近くに居たのなら、
お友だちになったかしら。
なれたかしら。
いや、なっていたかもしれない。
そうしたらすごく、
おとなしく、静かに、可笑しくて、楽しい、学生生活だったんじゃないかな、
なんて、
きっと、
甘いものを食べて、ふたりで丸々して、
あらいやだ太っちゃったなんて言って、
それでも笑っていたかもしれないなんて、
妄想タイムトラベル。


新幹線を降り立って
駅の改札には、
今はすっかり、小さく痩せているハハが迎えに来てくれて居て、
でも笑顔は変わらずに
「おかえり、どうだった?」


あなたの過去に
出会って来たよ。


何だか本当に不思議な旅だったなぁ。


一人の人間の
様々な役割として
様々に変化して歩んで行く
しかし確実に続いていくということが
この人生という旅なのだなぁ。


移り変わりの
切なさと愛おしさと。


下宿のお父さん、お母さんからは
わたしが訪ねた後すぐに、
こちらに電話がかかって来たそうで
随分と久しぶりに
お互いの声を聞いたのだそうで。


これからも
変わりながら続いていく、
きっとこの日のことも
わたしが
「娘」という役割において紡ぎ、
周囲に紡がれて行く、点なのだ。