連日の忙しさで、家に帰ることもままならなく、
職場が手配してくれたビジネスホテルで寝泊りして、
帰宅できたのは4日後の夕方だった。
その時には、書きかけの記事のことはすっかり記憶から抹消されていて、
とにかく、慣れた布団に潜り込むだけで精一杯だった。
夢をみることもなく、時間を気にすることもなく、
ただただ、自分の身体を布団に密着させてすべての事柄を脳に送り込まない。
それが自分自身にできる『優しさ』であった。
ふと記憶が現世に蘇ったとき、
「カタカタ」
と云う音が微かに部屋に響いていた。
それは規則正しく、最初は時計の秒針が刻む音かと思ったが、
それにしては、1秒を刻む間隔が短い。
それに音は時計が掛けてある場所じゃない所から聞こえていた。
音の発生源はパソコンからであった。
つまりは勝手にキーボードが打ち込まれている状況であった。
僕は立ち上がり、パソコンへゆっくりと近づいていった。
画面を見ると、書きかけの記事が完成しかけていた。
僕は不気味さを感じて、少し後ずさりした。
キーボードが打たれる音が途切れて、僕はふたたびパソコンの画面を見た。
本文が終わり、5行くらいの改行がなされてあり、
そして、
『これでいい?』
と、書かれてあった。

