ワインの添加物~補酸・除酸 その1 | ろくでなしチャンのブログ

ワインの添加物~補酸・除酸 その1

            ワインの添加物~補酸・除酸 その1

 

 「アルコールの強さを高めることができるワイン栽培地域、ブドウ製品の生産と保全に適用される認可された醸造学的慣行と制限、副産物とその処分のためのアルコールの最小割合、およびOIVファイルの公開に関する欧州議会および理事会の規則」(EU)479/2008附属書5(V) 及び 委員会規則(EU)No 606/2009 が根拠法となります。
 補糖・補酸・除酸に関する規則は、2019年3月12日欧州委員会委任規則(EU)2019/934号では、理事会・委員会の合意が得られず、変更されませんでした。 

 

 

理事会規則(EC)No 479/2008附属書5(V) 抜 粋

 

C. 酸性化と脱酸性化

1.

新鮮なブドウ、ブドウの必需品、発酵中のブドウ、まだ発酵中の新しいワイン、ワインは以下の対象となる場合があります。

(a)

附属書9(ワイン栽培ゾーン)で示した、ワイン栽培ゾーンA、B、Cにおける除酸。

(b)

第7項を損なうことなく、附属書9(ワイン栽培ゾーン)で示したワイン栽培ゾーンC I、CI、CIII(A)における補酸および除酸。又は

(c)

附属書9(ワイン栽培ゾーン)で示したワイン栽培ゾーンC III(b)における補酸。

2.

ブドウ果汁の酸性化は、酒石酸として表される1,50g / l、または1リットルあたり20ミリ当量までのみ行うことができる。1,50 g/l expressed as tartaric acid, or 20 milliequivalents per litre.

3.

ワインの酸性化は、酒石酸として表される2,50 g / l、または1リットルあたり33,3ミリ当量までしか実行できません。2,50 g/l expressed as tartaric acid, or 33,3 milliequivalents per litre.

4.

ワインの除酸は、酒石酸として表される1g / l、または1リットルあたり13,3ミリ当量までしか実施できません。1 g/l expressed as tartaric acid, or 13,3 milliequivalents per litre.

5.

濃縮を意図したブドウは、部分的に除酸されていてもよい。

6.

第1項にかかわらず、気候条件が例外的であった年において、加盟国は、附属書IXに規定するワイン栽培地域A及びBにおいて第1項に規定する製品の酸性化を、第2項及び第3項に規定する条件の下で許可することができる。

7.

酸性化及び濃縮は、第113条(2)に規定する手続に従って決定される軽蔑の手段による場合を除き、同一の生成物の酸性化及び脱酸性化は、相互に排他的なプロセスである。

D. プロセス Processes

3.

ワインの酸性化及び脱酸性化は、ワイン製造事業及び当該ワインの生産に使用されたブドウが収穫されたワイン栽培地域においてのみ行われるものとする。

 

ぶどう 補 酸

 ブドウは成熟とともに酒石酸、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸が生成されます。ブドウ果汁の発酵段階では乳酸やコハク酸も作り出されますが量的にはごく微量とされます。

 ブドウの果粒が大きく膨らんで色づいてくると果汁中の糖度が上がってきます。またタンニンやアントシアニンなどのフェノール類も増えてきます。半面酸度は低下していきます。糖分の約47.5%がアルコールに転換しますので糖度が高いほうがしっかりとしたワインになると言われています。また熟度が上がれば他の成分も増えていきますので凝縮した味わいのブドウとなり、ワインに的確に反映されます。 しかし、酸度の低いワインは、ぼてっとしたしまりのない味わいになると言われます。 また、pHが高い(酸度が低い)と雑菌やワイン造りにとって都合の悪い酵母が繁殖してしまいます。 また、色合いは酸度が低いケースでは、くすんだ色合いになります(酸度が高いと鮮やかな色合いになります)。 ワイン造りはブドウの糖度と酸度のバランス調整が求められ、ワインの品質向上策の1つ、酸の調整策が補酸と除酸となります。

 
 酸度が低い場合に用いられる酸性度調節剤は、所謂EUワイン法では酒石酸 (L(+)-)とリンゴ酸(D,L-;L-)だけが認められています。他にクエン酸等が認められている国もあるようです。

 酒石酸は、成熟したブドウに含まれる有機酸であり、主に発酵前に添加され、醸造の安定と自然な酸味を導くと言われますが、上記3つの有機酸の中では最も値が張ると言われます。

 リンゴ酸は、未熟ブドウに多く含まれるシャープな酸味の有機酸です。醸造中の微生物的安定のためにも使われます。リンゴ酸は乳酸菌によって乳酸に分解されるため、減酸しやすい性質を持ち合わせます。2003年の猛暑を契機にリンゴ酸添加が合法化されたの記述も見受けられます。

 クエン酸は、柑橘フルーツに多く含まれる有機酸です。最も安価で、低価格帯のワインの補酸に使われます。クエン酸は酵母によって酢酸に代謝されるため、揮発酸が生じやすくなる性質があります。

 アメリカに於いては、発酵完了後、クエン酸、フマル酸、りんご酸、乳酸又は酒石酸若しくはこれらの酸の混合を天然の酸の不足を矯正するために加えることができるとされます。

 ① 酸度の不足したワインのバランスを整える。ワインにフレッシュさの付与。

 ② 赤みの強い色素を抽出。pHが低い(酸が高い)ほど赤みが強くなり色も安定します。一方で、pHが高くなると青
  みが強くなり、色の安定性は低くなります。

 ③ PH値を下げバクテリアの活動を抑制し、亜硫酸塩の抗酸化作用と抗菌作用を高める。

 

ぶどう 除  酸(減 酸)

 減酸には2通りの手法があります。1つは酸の絶対量の減少であり科学的除酸と呼ばれる手法です。2つ目は酸を柔らかくする手法であり生物的除酸(微生物的手法)と呼ばれます。

 

1.化学的除酸

 「化学的な反応」を利用して酸の量を調整する手法です。化学的根拠を有しますので添加する品目の量に対応する減酸量が明らかです。確実性は極めて高いと言われる所以です。一般的な炭酸カルシウム添加の場合では、0.67 g/Lの炭酸カルシウム添加で 1 g/Lの酸を取り除くことが出来るとされます。

     0.67g/L×目標減酸量(g/L)×対象ワイン量= の式が成り立ちます。

               1000ℓのワインから2 g/Lの減酸の場合は、1,340gとなります。

 

 化学反応利用の除酸が有効なターゲットは酒石酸とリンゴ酸だけです。酒石酸は炭酸カルシウムの添加により酒石酸は結晶化し沈殿するため除去が可能となるようです。対して、リンゴ酸を減らす場合には炭酸カルシウム以外の配合や作業手順が必要となるようです。他にも、2019年3月12日の欧州委員会委任規則(EC)2019/934 附属書I パート A 表2に表記された認可された醸造学的化合物(酸性度調節剤 Acidity regulators)は、

   乳酸~除酸
  L(+)-酒石酸カリウム

  炭酸水素カリウム

  炭酸カルシウム

  酒石酸カルシウム

  硫酸カルシウム(石膏の主成分)

  炭酸カリウム          以上の7品目だけです。これらは何れも化学的な物質のため、味わいに不自然さを感じると言われる方もいるようです。

 注 酒石酸は補酸剤として利用されますが、上記品目と組み合わせ除酸に使用されることがあります。

 

 炭酸カルシウムは酒石酸と結合するため、リンゴ酸の除酸効果は低くなる性質があるとされます。冷涼産地の極めて成熟度が低くリンゴ酸が酒石酸より多くなってしまうブドウは、炭酸カルシウム単独で使用すると酸のバランスが悪くなりシャープな酸味のリンゴ酸が一層際立ってしまうとされます。本ケースでは複塩の除酸剤を使い酒石酸とリンゴ酸の両方を沈殿除去するなどの方法がとられるように、1品目を添加すると除酸できるような単純なものではないようです。ワインの質により除酸剤のブレンドや別途安定剤等の組み合わせが求められるようです。

 

2.生物的除酸

 赤ワインで行われるマロラクティック発酵 (Malolactic fermentation: MLF) が代表的なものです。MLFはバクテリアの一種である乳酸菌の代謝を利用してワインから酸を減らす手法です。また、アルコール発酵を行う微生物である酵母も酸を分解します。複数の微生物がワインに含まれる酸を分解するため、「微生物」的除酸とも呼ばれます。微生物による除酸は微生物の種類によらず、リンゴ酸が分解されます。

 

3.化学的除酸と生物的除酸の相違点

 両者の違いは2点。対象となる酸の種類と安定性となります。

 

  化学的除酸の対象は主に酒石酸であり、生物的除酸の場合は酵母や乳酸菌が用いられ対象はリンゴ酸です。化学的除酸は酸量を直接減らしますが、主に乳酸菌による除酸方法では酸の強さが減じられます。

 除酸量の確実性といった観点では両者に大きな差が生じます。化学的除酸に於いて炭酸カルシウムを1L中に0.67g投入すると確実に酸が1g/L減ります。対して、微生物を利用する手法では減酸量は未知数的な側面を有してしまいます。微生物の活動は果汁やワインのpHやアルコール度数、残糖量、温度などによって大きく影響を受けるためです。

 場合によってはリンゴ酸を減らせる微生物がワイン中に十分に存在しなかったためにまったく除酸が行われなかった、ということもあり得るとされます。また反対にリンゴ酸を分解する過程でワインに好ましくない影響を与える種類の微生物が繁殖してしまい、ワインが汚染されてしまうリスクもあるとされます。微生物を利用する場合には不都合な事態を避けるため、厳選された乳酸菌を使用しているようです

 化学的除酸は炭酸カルシウムと反応した酒石酸が酒石酸カルシウム (Calciumtartrat) として沈殿・除去されるのに対して、乳酸菌による除酸ではリンゴ酸は酸度の弱い乳酸に代謝されてワインの中に残留します。

 

● 酒石の除去

 酒石酸はワイン中のカリウムやカルシウムなど結合して、酒石と呼ばれる結晶化した物質(主成分は、L-酒石酸水素カリウム、酒石酸カルシウム)となり沈殿します。一寸だけ詳しいワイン愛好家にとっては「ワインのダイヤモンド」「ワインの宝石」「マドンナの涙」ともてはやされる訳ですが、ワイン販売店の苦情の1位が酒石酸。ガラス片が混入していたというものです。結果、ワインの品質管理?の一環として酒石の除去が行われます。

 市販のワインに「ワインの宝石」が入っていることからお判りのように時間の経過とともに酒石が生じます。酒石酸の結晶化を促進する人為的手法の1つが、コンタクト法と呼ばれ酒石の粉末をワインに投入することです。粉末を基として結晶化を促進する手法です。2つめが冷却法です。冷所に置かれたワインは酒石酸の結晶化が進むとされます。勿論-10度から-14度程度でワインは凍りますのでそれ以上の温度よ!言わば強制的に酒石を生成させるようなものです。温度については「5℃から-4℃を1週間」「-10℃で6日間」「約-5℃で20~30日間」と様々です。結晶化した酒石は除去されます。

 酒石の除去は、ワインの安定性の観点から有害とされる炭酸塩の中和を行なわずに酸度調整できるメリットと残留酒石濃度を制御出来ない。設備費が高く、処理時間とランニングコストがかかるというデメリットが指摘されています。

 又、冷却処理をしすぎるとワインの色素や味わいも若干落ち、特に赤ワインは顕著に現れる。カリウム除去にも有効だが赤ワインに関しては味が薄くなるとも言われます。

 酒石の除去については「除酸」という観点ではなく「濾過」として語られることが多いように思われます。明らかに除酸なのですが絶対量としては少量なのでしょうか?

 

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