「彼」の回復【32】『ルームメイト募集の下書き』 | 彼と彼女と僕のいた部屋

「彼」の回復【32】『ルームメイト募集の下書き』

 友喜はふたたび腕を組むと思考に埋没した。

(へたに良い文章を作ろうとするからいけないんだ。俺が思った通り、俺の考えた通りに書けばいいんだ。そのほうが俺の性格とあった人間が集まるはずだ。人が集まるように考えを巡らせば、偽りの文章ができてしまう。偽りの文章は俺の文章ではない。俺の性格ではない。そのままの俺を出すような形で文章を作ろう)

 友喜は腕をほどいた。A4紙の上に投げ出したシャープペンシルを持つ。
 紙に書いた前の文章の上に大きくバツマークをつけた。

$彼と彼女と僕のいた部屋-KK32

 前の文章の真下に新しい文章を書いていく。
(俺の思うままに。シンブルに、シンプルに)

 友喜は一文字、一文字を丁寧に書いていった。短い文章だったが、書き上げるのに十分を要した。

《ルームシェアメイト募集中
 実家から出てきたが、手ごろな住いが見つからない人。1人暮らしを始めたはいいが、ホームシックで人恋しい人。お金が足りなくて一人暮らしができない人。ルームシェアを考えてみませんか?詳細はこちらに電話をするか、メールをください。 哲学科1年 多島友喜》

「できた!」

 文面の半分は友喜自身が感じたことだ。
 祖父母が死に、一人で暮らすことの寂しさを感じた。時期が悪く、値段の高い物件しか見つからなかった。自分と同じような境遇を経験をした学生となら、うまくルームシェアをやっていけそうな気がした。

 友喜は自分の書いた文章を読み直した。シャープペンシルを握ったまま、深くうなずく。
「上手い下手はともかく、俺らしくていい文章じゃないか。これで、下書きは完成だな」

 友喜はもう一度文章を読むと、「うん、うん」と自分に言い聞かせるようにうなずいた。