「ずんちゃん、そろそろ寝ないと明日起きられなくなるよ?」

「んぅ……ずん、ねむないもん……」



目をしょぼしょぼとさせながら、意地でも寝ようとしないずんちゃん。明日の入学式があまりにも心配なのか、夕食を食べ終えたあとピッカピカのランドセルを両手で抱えながら



「……ここで、寝ても、いい?」



と私となぁちゃんの寝室にやってきたのだった。



「ねーまま、ガッコウは、どんなところ?」



いつもの絵本を読み聞かせながら、リズムよくトントンっとずんちゃんを寝かしつけていると、突然ずんちゃんはそう問いかけてきた。



「え、どんなところ……?」



パッと問われた問題に、私は一瞬にして言葉を詰まらせた。どんなところと言われても、5歳の子にどう説明すればいいのか私には分からなくなってしまったのだ。



「学校はね、ワクワクとドキドキがいっぱいのところだよ」

「…!?」


黙ってしまった私に気がついたのか、ずっと目を閉じていたなぁちゃんが突然口を開いた。



「わくわくと、どきどき?」

「そう、ワクワクとドキドキ」



読みかけの絵本を閉じ、ずんを越えてなぁちゃんの方へ視線を向けると、なんとなぁちゃんは目を閉じながら話している。


そう、それはまるで寝言のように。学校の話を説明しながら、かつてあった出来事を面白おかしくずんちゃんに語り始めた。



「うんとーかい?」

「そう、パパかけっこが得意でね、いつも1位になって、小さなメダルをもらってたんだ…」

「ずんも、めだるほしい」

「うん、ずんちゃんならきっともらえるよ…」




眠気が入り交じるなぁちゃんの声は、いつもより穏やかで低く、なんだが安心する。でも、今日のお仕事疲れたと夕食のときに言っていたのに、今懸命にずんちゃんのお話し相手になろうとしている姿をみると


健気というべきか、なんと言うべきか……少し心苦しくも感じる。




……







1時間後。なぁちゃんが頑張った甲斐もあり、ずんちゃんはようやく眠りについてくれた。憂いを含んだ表情もすっかり穏やかになり、幸せそうに微笑みながら眠っている。



「……いい夢をみてね」



そっと額にキスを落とし、手元の絵本を本棚に戻すべく、ベッドから上半身を起こすと




「ぁ……」




ベッドから振動が伝わったのか、くるりと寝返りをうつなぁちゃんと、それに釣られたように寝返りをうつずんちゃん。行かないでとでも言ってるかのように、私に体を寄せる2人の寝姿は全く同じで



「本当、親子だな……」




太ももの上に置かれた大小2つの手。起こさないようにそっとその手たちをズラすと、私は本棚に絵本を戻し、ベッドにあるランプをそっと消した。




今夜も、いい夢がみられますように……




岡山家のなんでもない夜であった。






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※27様リクエストありがとうございました。