いつもよりほんの少し遅い時間に帰宅したゆうちゃんは。ほんの少しだけ、お酒の匂いを帯びていた。



「ゆうちゃん、お酒、、飲んだのですか?」



目の前に広がるあまりにも非日常的な現実に、私は動揺を隠せずにいた。アルコールでほのかに赤く染るゆうちゃんの頬をそーっと撫でるとゆうちゃんは私の手に自分の手を重ね、うっとりした表情で目を閉じる。




「んー…、冷たくて気持ちいい…」



気だるそうに上がる語尾のアクセント。それは普段よりもずっと甘く、私に焦燥感をもたらす。




「なぁちゃーん…?」

「あっ、……とりあえず靴を脱ぎましょうか」




ゆうちゃんに袖を引かれて、私はゆうちゃんを支えながら靴を脱がしてあげた。おんぶにだっこでソファーのところまで運ぶと



「少し待っててください、今水を持ってきます」



とまだ現実味を帯びない現状に、私の心や思考は段々と麻痺し始めていた。どこかうわの空なまま冷蔵庫に向かう私はペットボトルからコップに水を注いでいると、暖かい何かにギュッと抱きしめられた。



「ゆうちゃん?……どうしたのですか?」




振り向く私をゆうちゃんはもう一度抱きしめなおしてくる。そして私の肩に顔を埋めては、しばらくすると耳元から微かなゆうちゃんの泣き声が聞こえてきた。




(あー、ゆうちゃんは本当に泣き上戸だな。)



心の中でそう思いながらも、この非日常な現実が続いた今日にとって、私はゆうちゃんの泣き声に安堵する。


嬉しいような悲しいような、ほっとした気持ちに私はゆうちゃんを優しく抱きしめる。




「大丈夫、大丈夫ですよ……私がいます


ゆう には なぁ がいます……」




背中を擦りながら、耳元で軽く囁く。
これは魔法の言葉で、唱えているとゆうちゃんはいつもほんの少しだけの安心したように頷いてくれる言葉だ。


だから私は何度もそれを唱えては、ゆうちゃんが泣き声が段々と小さくなっていくことにホッとする。






「ス-……ス-……」



どれぐらい時間が過ぎたのだろう。泣き疲れたゆうちゃんはようやく私の膝の上でスヤスヤと眠ってしまった。真っ赤に泣き腫らした目を指でなぞりながら私は今日のことを思い返す。


これまで幾度なくゆうちゃんの泣き上戸を見てきたけど、今回みたいに最後まで訳を話してくれなかったのは今回が初めてだった。



もちろん追い詰める気もないし、話してくれるまで待つのだけど……



あまりにもいつもと違うゆうちゃんに、何となく、今回の話は私が聞いてはいけないような気がした。




ゆうちゃん……私、なにかしたのかな……