それでも、前を向く
吉祥院Gに沈みゆく夕陽とともに、雪辱の勝利は消えていった。1年1カ月ぶりの雪辱の舞台。六甲ファイテイングブルはまたもや悔し涙をのんだ。
昨年以上に激戦が続いた近畿リーグの最終戦。4勝0敗勝ち点「19」の千里馬クラブに3勝1分け勝ち点「15」の六甲が挑む形になった。全国大会出場枠もからみ、条件つきではあるが優勝をかけた大一番。
「なんのために、僕らは六甲でラグビーをしているか?ですよね」
岡田主将はメンバーに熱い想いをぶつける。
「相手がどんな凄いメンバーだろうが、最後は気持ち。どれだけ千里馬に勝ちたい思いが強いかだと思うんですよ。よく『最初の10分が大事』とかいうけど、きょうは全員が最初から最後まで80分間全集中で勝ちに行きましょう!」
キックオフ直前の最後の円陣。関西クラブ界『伝統の一戦』にメンバーの気合いと緊張感が一気に高まる。その時「あ、最後にひとつだけいいですか?」と齢51になる先発FL・西谷が切り出した。
「僕もこの年になっても、まだ緊張するし、怖いです。でも最初のタックル、バチーン!と入れば怖さも吹き飛ぶし思い切りプレー出来る。最初の一発、思い切りやりましょう!」
この一言で、メンバーの緊張がほぐれ覚悟が決まった。
続く7分には自陣から挽回をはかる千里馬のキックをチャージ。再びゴール前に迫る。ジワリジワリとFW前進し、最後は防御のスキをついて、SH伊藤がポスト左に転がり込んだ。
14ー0。今季一番の立ち上がりに、ピッチに立つメンバー、陣営誰もが「この試合いける!」と思った。
だが直後のキックオフでFL西谷が無念の負傷退場となり、重苦しい雰囲気が漂う。千里馬もこの辺りから落ち着きを取り戻し、スクラムでプレッシャーをかけながら力強いアタックで1トライを返してくる。
気を取り直し敵陣に入る六甲だが、やや安易に突破される場面が目立ち、せっかく奪ったボールも相手に渡してしまうもったいない形で2トライ目を許してしまう。
千里馬はFL李智栄はじめ、個々が力強くなかなか倒れない。一方の六甲はSO中村が負傷退場、我慢の時間帯が続く。ゴール前密集のピンチでは岡田主将が値千金のジャッカルを決めてピンチをしのぐ。だが千里馬に2つのPGを決められ14ー16と逆転を許してしまう。なんとか盛り返したい六甲。前半終了間際に敵陣でPGのチャンスを得る。FB安部が落ち着いて決めて再び逆転。17ー16でのハーフタイムとなった。
千里馬の反則もあり敵陣に入ってアタックを繰り返す六甲だったが、肝心な場面でミスが続く。16分、アタックから左に展開したところで球がもたつき、千里馬に渡ってしまい、そのまま一気に70メートル近くを走りきられトライ。ゴールも決まって20ー23と再び逆転されてしまう。
その後も一進一退の攻防が続いたが、点を取りたくて焦る六甲と、自陣で反則、ミスが続いてもけっしてあさらない千里馬の「精度の差」を感じた。
去年、そして夏の練習試合と同様、千里馬は最後まで慌てることなく、またピンチになった時の修正能力も高かった。安定したスクラム、個々の強さ、セットプレーの安定。相手の力を引き出しながらも最後はしっかり勝つ『横綱相撲』をされた感が強かった。
六甲は途中負傷者が出てコントロールが難しい中で最後まで必死に戦った。だがチャンピオンチームの力はまだまだ上だった。
「悔しいけど、、、やっぱり完敗でしたね」岡田主将は必死に涙をこらえながら唇をかみしめた。
これで近畿リーグは準優勝。2年ぶり29回目の出場となる全国大会には関西第4代表として出場することになる。
負けたといえるのは挑戦した証。
課題と同時に、手応えを感じたプレーも多かった。
まだ終わりじゃない。いや、全国へは本当の戦いはここからなのだ。
負けた悔しさ、己の弱さ、共に強敵に立ち向かう仲間の絆の深さ、暖かさ・・・。色々なものが入り混じった試合後の円陣。
まだまだ俺たちは強くなりたい、強くなるんだ。
ほろ苦さを十二分に噛みし六甲ファイテイングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)