悔しさを乗り越えて
後半終了間際。
ハーフライン付近で反則を得た六甲は、レフェリーに残り時間を確認して、ショットを選択した。
約50㍍のロングPGを、SO安部が渾身の力で蹴り抜きゴール成功。21ー26。1T1Gでの逆転を射程圏として最後の勝負にかけた。
直後のキックオフ。フェイズを重ねて敵陣へ入り込もうとした六甲だったが、千里馬の防御に絡まれ痛恨のターンオーバーを許してしまい、最後は右隅にトドメのトライを許し万事休すー。
21ー31。ノーサイドの笛と共に鶴見緑地球技場に千里馬陣営・応援団の歓喜の声が地鳴りのように響き渡った。
「戦国リーグ」とも称される今季の近畿リーグ第2戦の相手は千里馬クラブ。二十数年前の関西Aリーグ時代から共にしのぎをけずってきた。名門復活へ数年前から周囲も目を見張るような補強と体制改革をい断行。この日も春先までドコモで活躍していたFLの李智栄や、SHには元パナソニックの小西大樹など4人の元トップリーガーや、大学Aチームで活躍した選手をズラリと揃えた必勝メンバーで臨んできた。
「ボールを大きく動かして、走って、組織力で戦おう。必ずチャンスはある」
給水係としてサポート役に回った小野主将は、№8三﨑にキャプテンを託し、23人をピッチに送り出した。
前半は互いに腹の探り合い。元ドコモの李、元パナの西原の両FL陣の重くパワフルな突進を六甲は必死に食い止め、SO安部のキックで敵陣に展開していく。SH北埜が絶妙な間合いをついて突破しチャンスを作るがあと一手が出ない。
8分、21分とSO安部のPKで得点を重ねた六甲についにチャンスがやってきた。38分、敵陣右中間のラックから「元気印の斬込み隊長」FL岡田が抜け出し、両軍通じて初のトライをあげた。
だが、千里馬もすぐさま反撃。前半終章間際にトライを上げ13ー7。関西クラブ「伝統の一戦」は予想通り、陣営も観衆も息をつけない熱く激しい戦いとなった。 後半、最初に得点した方が有利になる。攻防の我慢比べからトライを上げたのは千里馬だった。
敵陣に入ると丁寧にフェイズを重ねて右隅にトライ。難しい位置からのコンバージョンも決まって13ー14と逆転される。
その後も同じような形でトライを決められ13ー19となった後半20分過ぎ。途中から替わったWTB三木がこぼれ球を拾って前進。LO木曽が激しく当たって突破。千里馬防御の空いた左裏に安部がゴロキックを蹴り込み、WTB鈴木が落ち着いて押さえ込んだ。
18ー19。さあここから反撃!と波に乗りたかったが、千里馬は自信のある縦突進からミス無くフェイズを重ねてみたび、同じような形でトライを上げた。
試合を通じて強く感じたことだが、千里馬は選手の個々の強さもさることながら、メンタル面での強さが目立った。FWは李、西原、BKは小西、田中、木村など経験豊富なメンバーが「チームを落ち着かせる所」「勝負を決めにかかる所」を熟知しており、最後までチームの規律が乱れることはなかった。
一方の六甲も随所に低く激しいタックルを見せ、躍動あふれるアタックを何度も見せたが、肝心な所でのミスが響き、試合の流れを取り戻せなかった。
「相手にのまれる時間帯が出来たときにしっかりと自分たちでコミュニケーションを取り雰囲気を盛り返すことが出来ませんでした」(FL岡田)
21ー31での完敗。千里馬クラブには08年の関西Aリーグ(芦屋中央)以来の敗戦、近畿リーグでは2015年に参戦してから、初めての黒星。リーグ戦の連勝は「33」で止まった。
「こんな形になってすみません」(キャプテンを務めた№8三﨑)
試合後の重苦しい雰囲気の中、榎村GMは切り出した。
「この結果をしっかり受け止めて、前に進みましょう。ここで歩みを止めたら普通のチームになってしまう。自分たちに足りない所をしっかり認識しよう」。
スタンドには多くの家族、知人、友人が駆けつけてくれたいた。悔しさと申し訳なさ、そして声援を受けながらプレー出来る喜びも感じることができた「伝統の一戦」だった。
負けに不思議の負けなし。
自分たちの弱さに気付き、また自分たちが強くなれること、強くならなくてはいけないこと。
リメンバー10・30,リメンバー鶴見緑地。
負けた時に、逃げずに何をつかんで立ち上がるか。
男の価値はそれで決まる。
(三宮清純)