【2・5 準決勝雑感】 | ROKKO RUGBYFOOTBALL CLUB OFFICIALBLOG

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ROKKO FIGHTINGBULL / REDWING

 紙一重の運命も後悔なし
 10対10。六甲、タマリバ互いに一歩も引かぬままのノーサイド。
 ホッとした表情を浮かべながら握手を交わし、気もそぞろにグラウンドで簡易ファンクション。そして、2人の主将は別室に呼ばれた。
 数分後。カーテンに閉ざされた別室のドアが開いた。六甲ファイティングブル主将・谷晋平は笑って出てきた。だがその笑顔はどこかぎこちなかった。
 「ダメでした。すいません…」。
 そういって理事長の中島誠一郎と握手を交わした。
 「引き分けは抽選」。ラグビーに関わる者なら百も承知だ。
 だけど、だけど…。
 この終わり方は切なすぎるよー。
 「いや~正直、絶対当たる気はしてたんですけどね。何回も封筒取るなんて知らなかった」。
 まずジャンケンで予備抽選(順番を決める)。勝って自分側の封筒を選んだ。先に選択権があった。そして本抽選。やはり自分側の封筒を選んだ。
 「『残り物には福がある』ってことわざ思い出してたんですけど…」
 タマリバ・阿倍主将と同時に開封。谷の封筒の中にあったのは
 「挑戦権なし」
 と書かれた1枚だった。
 「うわっ、これで決勝行かれへんのかよっ!」
 谷は思った。わずかな時間に様々な思いが頭を駆け巡る。
 「1年間頑張ってきたのに、運で最後は決着つくんかって笑。頑張った方に運が転がるんなら何を基準に頑張ったんやねん、と苦笑」
 決勝切符は、2年前と違って、本当に、本当に谷の手からこぼれ落ちた。
 
 試合前のフォーカスポイントは「セットプレーとトライを取りにくこと」。
 タマリバの低く激しいタックルに簡単に倒れず、レッグドライブ。前に出るラグビーを心がけた。特にスクラムをコントロールできたことが、なかなか得点を取れない展開でも選手が落ち着いてプレーできる要因になった。
 試合は残り20分。互いに「ノーペナルティ!」「規律!」の掛け声が飛び交い必死の攻防が続く。特にシンビンで1人少なくなった大ピンチの時には
「残りの14人全員が声を出して戦っていました。本当に頼もしかった」
 FL中村をはじめ六甲戦士が激しくタックルを見舞う。同点に追いつかれてもひるまず前へ、前と出た。雨でぬかるんだ悪条件の中、互いの反則は「7」。後半に至っては六甲「3」タマリバ「2(フリーキック1)」と、クラブの試合としてはかなり少ないといっていい。
 「自分たちでいうのもなんですが…」と谷は振り返る。
「この試合はクラブチーム最高峰の試合だったと思います。トップリーグや大学、高校より認知度も注目度も少ない。だけど、観戦する人にとっては、より身近に感じられるカテゴリーだと思います。
 選手達は平日は必ず定時まで働いて、もしくは残業してからトレーニング。早朝に時間を作ってトレーニングする選手もいる。そして選手それぞれのバックボーンも違う。高卒、元トップリーガー、大学Aリーグのレギュラー選手、メンバー外、Bリーグ以下でトップレベル未経験の者。さらには初心者まで…。年齢も違えば職業も違う。そんな中互いを支えながらプレーするクラブラグビーは、僕はとても尊く感じます。この試合は、クラブラグビーの素晴らしさが凝縮された80分だったと思います」
2014年3月29日の主将就任以来1044日、3年間の集大成として臨んだ今大会、またしても負けないままシーズンが終わった。公式戦では22勝1敗2分の成績を残した。
「最後のショットの選択は迷いはありませんでした。結果的には残念でしたが、なんの後悔もありません」
 だが会場外での最後の円陣ではやっぱり熱いものがこみ上げてきた。涙がこぼれないように、何度も何度も自分の手でゴシゴシと顔をぬぐった。
 「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。寒い中応援に駆けつけてくださった皆さん、サポートしてくれた皆さんと決勝に行きたかった。この舞台にも、みんなに支えられて連れてきてもらったのに・・・・。やはり僕には何かが足りなかった」。
  先輩から後輩、あらゆる世代の仲間に言葉を選びながら情熱を伝えてきた。だからみんなついてきた。この男を胴上げするためにもっとできることがあったんじゃないかと、皆、キャプテン最後の言葉を聞きながら無念をかみしめていた。
 数日後、主将から連絡があった。あの後、仕事に支障がきたすほど?仲間からねぎらいと感謝のライン攻撃にあったという。「六甲クラブでラグビーするのが楽しいって言ってもらえたのが1番嬉しいですね」。
 中には、勝てなかったのは自分の責任と、背負いこむものもあったという。
 「でも、変な言い方ですけど、僕の手で「挑戦権なし」が引けてよかったですよ。責任感じてる選手もいると思いますけど、もしそれで同点にもならずに負けてたら、かわいそうすぎますから。チームの責任は僕の責任って事で。僕で終われてよかった」。
 
 しんぺい。
 こんなこともあったと、いつか笑える日が来たら、いいね。
 (三宮 清純)
 
※写真は小川高志様からご提供いただきました。