低く鋭く突き刺さるタックルは、あの頃と同じままだった。
六甲FB2011・12年度主将、鎌田崇史。
名古屋クラブの最前線に、この男はいた。
小さい身体でチームを鼓舞し、日本選手権ではクラブの厳しい環境を言い訳せずに満身創痍の体で、大学最強の帝京大に真っ向勝負を挑んだ。
2013年度途中で名古屋に転勤、14年度から六甲を離れていたが、何かと古巣を機にかけ、昨年度の全国大会は3試合とも瑞穂ラグビー場に応援に駆け付けていた。
「ラグビー抜きの人生なんて考えられない」。
観客席から見る六甲の試合に再び闘争本能に火がついたのか、昨年、夏の始まり頃に、
「もう一度日本一を目指したい。名古屋クラブに入ります」
と、親しい六甲関係者に伝えた。律儀な男らしく、昨夏の名古屋クラブとの定期戦会場に顔を出し、古巣の仲間にその意思を告げ、「全国で会おう!」と固い握手をかわした。
「今日は初めから厳しい試合になると覚悟してました。最初の10分、激しく低いタックルを意識しました」(名古屋FL・鎌田)
待ちに待った古巣との対決。キックオフから鎌田はスパークする。サイズを生かした六甲のアタックにも身じろぎもせず、六甲LO大内の突進を一発で仕留めた場面は、両軍サイド、観客席がどよめいた。
前半こそ点差が開いたが、鎌田のタックルに名古屋も勢いに乗る。機動力のある2・3列が鋭く
球際にからみ、六甲の反則を誘い、ジワリジワリと追い上げていく。後半18分、名古屋モールから自ら持ち込みトライ。その後も名古屋の時間帯をキープして、かつての仲間を一時は19-17の2点差まで追い詰めていく。
終了間際に六甲が意地を見せ26-17でのノーサイド。
「最後の最後で突き放されてしまいましたね。でも、この試合、名古屋にとっては今シーズンベストゲームです」
元主将はノーサイドのエールの交換後、六甲ベンチ・観客席に深々と頭を下げた。
ノーサイド後、両軍がピッチ中央に集まってささやかなファンクションが行われた。
名古屋クラブからマン・オブ・ザマッチ(MOM)に指名された六甲・谷主将は、
「本当に厳しい戦いでしたー」。と感謝の言葉を述べた後、六甲側からのMOMに
「低いタックル、トライもされて本当に苦しめられました、僕が大好きで尊敬するプレイヤーでもあります」
と、鎌田を迷うことなく指名した。
「ありがとうございます。昔の仲間と真剣勝負ができて、本当に楽しかったです」
鎌田は少しはにかみながらも、昔と変わらず、少しカミながらも試合を振り返った。
しかし、後ろにいる仲間のすすり泣きを耳にしたのか、その表情は赤くなった。
「僕たちは、この試合にかけていました。名古屋クラブで、六甲に勝てなかったことが本当に悔しいです。準決勝、僕らの分も頑張ってください。応援に行きます!」。
涙をこらえながらの堂々としたスピーチに六甲側はさらなる覚悟を決めた。
流れを変えるタックル。素早いリロード。かつての主将と、関西のライバルクラブに「勝負の厳しさ」を改めて教えてもらった戦いだった。
「準決勝のタマリバ戦、魂込めたプレーを期待してます。
試合後のミーティングで、名古屋クラブの、メンバーは泣いてました。名古屋クラブのメンバーは泣いていました。僕らの分も勝って下さい。応援しています。
日本一になれよ!」
カマ、有難う。
「六甲魂」確かに受け継ぎました。
(三宮清純)