我等、王座ト誇リヲ奪還セリ
快晴の和歌山・紀三井寺補助G、13時58分。
優勝をかけた近畿リーグ最終戦、千里馬クラブとの全勝対決。雪辱の一戦を前に、六甲ファイティングブルは固くハドルを組んだ。
「最後まで全員が同じ絵を見続けよう!」
交代指示を務める榎村GMがゲキを飛ばす。
「苦しい時間、上手くいかない場面でも絶対マイナスなことを言っちゃダメ。最後まで前向きに。ひたむきに。仲間を信じて。必ず結果はついてくる」。
珍しくかまずに続けたGMの言葉に新鮮な驚きを感じながら、円陣のメンバーは主将・安翔大の言葉を待った。
「積み重ねてきたものを全部出そう。俺たちはどのチームよりも走って来た。自信を持って、絶対勝とう!」
決して譲れない戦いのピッチに六甲戦士が飛び出していった。
六甲のキックオフで始まった。やはり昨季のクラブチャンピオン・千里馬の当たりは、これまでのリーグ戦どのチームより激しく、重く、痛い。早々にWTB畑が右肩を痛め負傷交代。六甲陣営に嫌な雰囲気が漂う。
6分だ。互いにキックの応酬から得たゴール前10㍍付近のラインアウトで六甲はモールをドライブ。「ここがチャンス!」とFWが足をかき、左隅になだれ込み、FL井上がタッチダウン。難しい位置からのコンバージョンもFB安部がきっちり決めて、六甲が7-0と先制する。
だが直後の10分、千里馬も落ち着いて逆襲。重たいアタックと六甲防御をずらしてスペースを作り、同点のトライ・ゴールを決められてしまう。
その後しばらく膠着した状態が続いていたが、20分、右ライン際のスクラムから六甲は左に展開。素知らぬ顔で駆け上がってきたWTB三木が大きく前進して右に切り返してCTB安藤輝につなぎ、ポール真下にトライ。ゴールも決まって14-7とする。
しかし慌てることのない千里馬はすぐさま反撃。元ドコモの李智栄のアタックなどでトライを返し14-14。勝負は再び振り出しに戻った。
ここ数年の六甲なら、このあたりで「もっと早く点を取らなきゃ」と冷静さを失うところだが、今季は「どんなに苦しくても集中を切らさない。個人で勝手なプレーはしない」(安主将)としっかり規律を守り王者に対抗する。
その根源となったのはスクラムだった。
「ファーストスクラムで『いける!』と感じました」と、この日3番に入った奥野竜。千里馬を押し込みプレッシャーをかける。特に自陣ゴール前では8人が一体となり猛プッシュでターンオーバーして反則を奪う。左脇から共に押し上げたFLが岡田が飛び上がって雄叫びをあげる。
タイトな試合では、たとえわずか数㍍、数十㌢でもスクラムを押し込めば、バックスもベンチも大いに勇気が湧いてくる。スクラムに相乗して懸命のデフェンスが続く。
前半のうちにもう一度リードしておきたい六甲は千里馬ゴールに迫ったが、ターンオーバーされてしまう。このままハーフタイムかと思われたその時、千里馬SH牧山のパスを№8三﨑が大きく腕を伸ばしてインターセプト。そのままポスト下に飛び込む値千金のトライ。21-14でのハーフタイムとなった。
前半終了間際のトライは相手に大きなダメージを与えるとともに、味方には何よりの活力剤になる。ハーフタイムで修正点を確認するメンバーの表情が、これまでにないくらい生き生きとしている。
「千里馬は後半がものすごく強い。ちょっとでも油断すると一気にやられてしまう。もう一度0-0からの気持ちで」と安主将は円陣でまとめたあと、スーッと息を吸い込み、おそらく準備をしていた?言葉を叫んだ。
「千里馬をボコろう!」
自信を確信に変えるため、勝負の後半40分が始まった。
やはり千里馬は前半よりペースアップして六甲陣に攻め込んで来た。№8廣瀬の小柄ながら固いアタック、CTBマノア・ラトウの強烈なゲインで一気にゴール前まで迫ってくる。ゴールを背にして必死のデフェンスを見せる六甲。そしてまたスクラムを押し込みピンチを脱出する。
「その時」が来たのは後半4分だった。FKから千里馬は連続攻撃で一気に六甲陣深く斬りこんできた。その千里馬のパスを六甲CTB川内がスッと前に出てインターセプト。川内は味方の声援を背に受けポスト真下まで70㍍を一気に駆け抜けた。神戸科技高出身の21歳が、PAくすのき戦に続き大事な場面でポテンシャルを発揮。川内は防御でもゴール前の大事な場面でチームを救うビッグタックルを見せた。
28-14、点差は少し開いたが、相手は全国王者の千里馬。さらに激しさを増してアタックを強めてくる。六甲もフレッシュなリザーブを投入し必死の防御を続ける。
ここでもまた六甲のスクラムが爆発する。㏚に李と入れ替わった奥野太が、さらに圧力をかけて千里馬にプレッシャーをかけていく。
22分、33分と敵陣での少ないチャンスで、六甲はPGを選択。FB安部が落ち着いてゴールを決めて34-14とする。このあたりから王者・千里馬のアタックにも焦りが見え始めミスも多くなってきた。
38分過ぎ、敵陣10㍍付近での六甲はマイボールスクラムを押し込みアドバンテージを得る。崩れた密集から前がポッカリ空いたのをLO粟田が見逃さず、悠々とインゴールを陥れ、ポスト裏にダイブ。勝負を決定づけるトライとなった。
「その瞬間」を選手、ベンチ、応援団は待ちわびていた。ロスタイムは7分近く続いた。最後は王者の意地を見せた千里馬にトライを奪われたが、直後にノーサイドの笛が鳴り響き、六甲戦士たちは紀三井寺の夕暮れ空に両手を突き上げた。
41-21。昨年の完敗から378日ぶり、関西王者、全国大会の連続出場記録が途絶えた2023年10月30日に負けてから実に1172日。六甲ファイティングブルが昨季のクラブチャンピオンにリベンジを果たし、近畿リーグ王座を取り戻した。
笑顔と同時に自然と熱いものが込み上げてくる。この瞬間の為に頑張って来たー。選手もスタッフも涙と汗が入り混じったいい顔をしていた。
4年ぶりの近畿リーグ優勝と、2年ぶり30回目の全国大会出場を決めた。「復活ロード」はまだまだ続く。
六甲ファイティングブル。
今はただ走り抜けるのだー。
(三宮清純)