前回、「物質的な慢性刺激だけではなく、精神的な慢性刺激によってもガンが発生する可能性については別の機会に」と述べましたが、これについては既に2019-01-21のブログ「病とは適応である ーストレス学説”適応病”の概念―」でも触れていました。

例えば若年や中年で、飲食の不節制や喫煙・飲酒歴もないのに胃ガンやすい臓ガンを発症する症例をたまにみることがあります。このような場合ふつう原因不明とされるのですが、思慮過多(考え過ぎ)が原因と考えられることがあります。

図1のように、”部分即全体”の法則によると、腹は全身でもあります。そして、胃やすい臓の位置はちょうど頭部周辺にあたります。同部位は左側の図では心・脾募・胃土にあたりますが、心は心臓であると同時に”こころ”でもあります。胃土は胃が五行(ごぎょう: 木火土金水)では土(ど)であり胃は「田+月(肉月)」で田は土(ど・つち)です。脾募の脾は「月(肉月)+卑」ですが卑とは地面=土(つち)という下にある卑しいところという意味です(でも実は卑の付いた脾臓は後天の元氣を産生するとても重要な臓ですが)。胃も脾も土ですが、「万物は土に還り(消えて)土から生まれる(化する)」というように土とは”消化”の意味があるのです。何かを思考する時、「こうかな?いやそうではなくて(消)、こうかな(化)?いやいや(消)こういうことかもね(化)?」というように、思(田+心)うとは字のごとくに田の心でもあるのです。思考ということばがそれを象徴しています。

だから思慮が過多になると頭がすっきりしない、詰まる、痛むといったことが起こると共に、胃やすい臓部もすっきりしない、重苦しい、痛いといった症状が起こりやすくなるのです。胃やすい臓の氣血が滞って通らないので”痛”み疒+通=痛)、外からは見えないけれども必然的に”腫れ”、”発熱”、”発赤”、つまり疼痛・腫脹・発熱・発赤の四つが揃って炎症(炎の症)が起きて細胞の壊死(えし)が起こります。それは自然に再生増殖して回復しますが(適応)、何度も壊死と再生増殖が反復するとやがて再生増殖が過多になってそれが固定するとガンになるということです(適応病)。これが精神的な慢性刺激によってガンが発生するメカニズムであると個人的には考えています。

図1         腹部       ⇔        全身

       

 [鍼灸舌診アトラス(藤本蓮風等)より]

他にも、精神的要因によって起きると考えられる例を挙げますと、例えば胆のうガンや腎臓ガンもそうです。これには経絡(けいらく: 氣の通り道)の理解が必要です。

図2左は足の少陽胆経という経絡図です。体側面に沿って走る経絡で、胆とは「月(肉月)+旦」ですが、月は肉月で肉体の意味、旦は元旦の旦で地上から日が昇る象形で、スタートを意味します。「あれも、これも、・・」と心が忙しいとかイライラする時に氣が走る所です。このような心理状態が反復すると胆経を走る氣が過剰になって詰まりがちになり氣が通らないつまり痛(疒+通=痛)みが生じ、同時に、見えはしないし必ずしもはっきり感じませんが腫脹・発赤・発熱が生じます。この四つが揃うと炎症でこれが反復するとやがて再生増殖が壊死を上回って、胆のうのところでは胆石や胆のうガンに、腎臓のところでは腎臓結石や腎臓ガンに発展することが想像されるのです。

 

図2  足の少陽胆経(左)と足の厥陰肝経(右)

図2右は足の厥陰肝経です。「肝胆相照らす」のことばどおり、肝と胆は表裏一体の

肝経にあります。肝の右側の干は幹という字の右側にある干と同じで木の幹が伸びる意味があり、胆の右側の旦と同じで氣が上がることを意味しています。ただ、臓腑でいうと肝が臓で陰・内側、胆が腑で陽・外側の関係になるのです。

月経の時には、肝氣が上昇して頭痛や肩こりが起きると同時に、下半身には冷えが生じると共に下腹痛が飽きることがあります。これが反復して婦人科系臓器に冷えが定着すると、陰(冷え)極まれば陽(熱)が生じてこれが高じると炎症に転化することがあり、これが反復すると炎症による壊死を再生増殖が上回るようになるとガンになり得ると考えられるのです。

以上が、精神的な慢性刺激によるガンの発生のメカニズムに関する私見です。ただ、実際は、身体をつくる飲食とそれと連動することが多い精神面、さらに身体や心に連動する姿勢や運動の相互作用等々も総合的に考えることが大切です。