これからは、アト・ランダムにですが、毉(医)学のおもしろい”用語解説を独自の視点から書いていきたいと思います。特徴の一つは日本語や英語のことばの意味を深堀することで、不思議と本質的なことがつかめることで、これが”おもしろい”につながるのではと思います。これを積み重ねて、いずれ≪おもしろ毉学辞典≫としてまとめられたら、毉学・毉療の本質を突いた世に役立つ辞典になるかもしれない、と勝手に妄想(亡き女を想う)しています。

 

今回の用語は病と症状と健康です。

まず、病とは何かです。病とは病垂れ(疒)に丙です。疒の左側の冫(二水)は水で陰を、疒の内側の丙(火の兄:ひのえ)は火で陽を表し、その陰と陽のアンバランスという異常が病です。逆に、陰陽バランスの取れた状態が健康です。図で表すと、図1太極円通図のようになります。陰陽バランスがとれて陰陽が一に止(とど)まって正しく(一+止まる=正)バランスがとれて一つの円となって、生命として回転している状態です。

 

これは、生命(広義)とは「宇宙大自然のミクロからマクロに至る万物万象の中心帰一の回転コマ運動をする円・球である」という当院の生命の定義を背景とするものであり、図2のウロボロスの蛇(輪)にも通底するものです。図2の各レベルのすべての要素の基本形が図1であり、キーワードはUniverse(宇宙)=Uni(一つに)verse(回る)です。

 

健康とはHealthですが、語源はギリシャ語のHolosで全体という意味です。全体とは円”満”とか円”滑”ということばがあるように円満円滑に回転している円の状態です。Whole(全体)やHoly(神聖な)もHolosに由来します。なぜ全体とか円の語源が”神”聖にもつながるのでしょうか?

 

聖書では神は「我は初め(α:アルファ)であり終り(ω:オメガ)である」と言っていますが、円はどの点をとっても、そこは初めであり終りなのです。聖アウグスティヌスも「神の本質とは至る所に中心があり、どこにも円周がない円である」と言っています。αとωは日本の神社なら阿(あ)と吽(うん)に相当し、口を開けて阿を言う右側の狛犬(こまいぬ)と口を閉じて吽を言う左側の狛犬に当たります。向かって右側は祭神からは左(火足り)なので陽、向かって左側は祭神からは右(水極)なので陰に当たります。火と水で火水(かみ)で神を表すとする観方もあります。

 

ということで、健康とは健(すこ)やかで康(やす)らかという解釈だけでなく、円満円滑に回転する円という奥深い意味も内包しているのです。陰陽(冫と丙)のバランスが取れなくてアンバランスになることが病であり、そこに現れるさまざまな状態が、陰陽が一に止まっていない(正でない)症(疒+正)状になります。図1の太極円通図で言うと、陰陽が一つになって円滑に回っている状態が健康で、一に止まらなくて歪(不+正:いびつ)になった状態が病であり、それによる様々な状態が症状となります。

 

太極円通図は図1のアナログ図だけではわかりにくいかもしれませんが、具体的なことばを入れると図3のような天人相応太極円通図になります。易学の用語など難しいかもしれませんが、何度も繰り返し見ているとこの図がいわんとすることが少しずつお分かりになってくると思います。人は天と相応して回転運動(正式には中心帰一の回転コマ運動)をしながら生きているのです。

 

陰陽のアンバランスな状態である病の多くは、図の左側の陽の部分(交感神経、吸気、活動、興奮、緊張等)が過剰になった状態であり、それ故に病になると図の右側の陰の部分(副交感神経、呼気、休息、鎮静、弛緩等)を大切にしよう、となるのです。

 

象徴的なのは、ある時期、自律神経免疫療法というのが一世を風靡したことがありました。安保徹先生と福田稔先生の安保・福田理論によるもので、爪を揉んでリラックスするところがポイントで、”爪揉み療法”というのがありました。西洋医学的病名に関係なく効果がみられるとのことで当院でも導入させていただきましたが、この図では交感神経と副交感神経のバランスに重点をおいた療法だったということが分かると思います。

 

例えば、高血圧というのは図の左側の要素が過剰になることによることはわかりやすいと思います。爪揉み療法を行うと、右側の要素が復活してきて血圧が安定に向かうのです。爪揉み療法を行うと心身がリラックスして体が温かくなり血圧は下がる方向に向かうことを皆さん実感されます。もちろん、これだけですべてが解決するわけではないのですが、日常生活の中でできるだけ図の右側の部分が増えるようにすることが大切です。

 

図1太極円通図              

    

 

図2ウロボロスの蛇(輪)

   

 

図3 天人相応太極円通図

ガンの場合はどうでしょう。個々の細胞には寿命があります。細胞は自然の代謝のなかで新生増殖(陽)と壊死(陰)を繰り返しますが、新生増殖が壊死を上回ると増殖が過多となって腫瘍(腫:はれる+瘍;あがる=はれあがる)ができ、それが継続するとその部では収まらずに外に飛び出します。これが転移です。

 

世界で初めての発ガン実験は日本の山極・市川によるものです。ウサギの耳にタールを擦過することを繰り返すうちにガンが発生したというものです。慢性刺激です。擦過された場所では細胞が壊死と再生増殖を繰り返すうちに、同部の細胞は「再生しなければならない」といわば刷り込まれ、増殖が勝ってくるのです。ガンは癌(疒+品+山)と書きますが、細胞と言う品が病的に(疒)山のように増えることだと聞いたことがあります。ビールが好きで長い間飲み過ぎているうちに食道ガンになったとか、タバコの吸い過ぎで肺がんになったとかの例もあります。足関節部の化膿が治りきらないまま、仕事の関係で同部に慢性的な刺激がかかって炎症が反復するうちに、白血球を中心に多血症になった例もあります。動物でも、乳首を噛む癖のあった雌犬がやがて同部にガンが生じたという獣医さんの話も聞きました。まとめると、物質的な慢性刺激・慢性炎症がガンの原因と考えられるのです。ただ、物質的な慢性刺激だけではなく、精神的な慢性刺激によってもガンが発生する可能性が考えられます。これについては、長くなるので別の機会にのべたいと思います。

 

今回とりあげた高血圧やガンをはじめ、病というのは陰陽のアンバランスによるものなのですが、そこから現れるさまざまな症状というのはもちろん病的な現象なのですが、実は適応反応であり療法でもあるのです。ストレスという概念を医療で展開したのがストレス学説の提唱者ハンス・セリエですが、彼は”適応病”という概念を提示しました。多忙な時や緊張の強い時つまり頑張らなくてはならない時には交感神経が緊張して血圧が上がる方が良いのです。慢性刺激で細胞が壊死した時には細胞は再生増殖しなくてはならないのです。症状とは適応であり療法でもあるのです。ただ、それが継続しすぎると血圧が高いままになったり(高血圧症)、再生増殖が限界を超えてしまう(ガン)ということで、陰陽バランスが崩れたままになって病として定着するのです。

 

宇宙大自然は「陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転じ」て中心帰一の回転コマ運動を自ずからするようになっているのです。これが自然治癒力の本質です。それを超えるような生活習慣(主に飲食と精神生活)が病を起こすということです。因みに、自然治癒力とはNatural Healing Powerですが、治癒 Healingの語源もHealthと同じHolosで、Healingは円満円滑に回転する円という意味を内包しているのです。これが当院の円通毉療の考え方です。

 

ストレスという用語は今は誰もがふつうに使うことばですが、残念ながらセリエの思想は一般の方はもとより、医療関係者もほとんど知らないのが現状です。再認識が望まれます。