ある中年女性。不眠(夜間覚醒)で来院される。“漠然とした不安感”があるため毎日酎ハイを

三杯くらい飲む、のぼせ、汗かき(首から顔)、体重増加、高血圧等々がある。

西洋薬はもらっているが効果不十分で漢方的に何とかならないものか、とのこと。

この場合、「はい、漢方ではこんな薬がありますよ」とはいきません。

薬云々の前に、まず「なぜこのような症状が出てくるのか」の理解を生活習慣に絡めて解析し

理解していただくことが何よりも大切です。それ抜きには漢方でも効果は期待できません。

生年月日を観ると、この方は食べることが大好きなようです。それも特にピリ辛の類

そして肉類・脂肪分それに酎ハイ。そして“漠然とした不安感”と表裏一体でしょうが、

繊細で考え過ぎのところがあり、そのストレス緩和のためでしょうか、少しずつながらも

超頻回に食べる癖があるようです。

何かを食べると体とくに胸から首・頭にかけてが温かくなります。特にピリ辛の類や

肉類・脂肪分を頻回に食べると熱くなります。だから汗が出る、のぼせる、眠れない、体重増加、高血圧等々というように、「今の症状は食べ過ぎが原因、そしてそれは以前からの漠然とした

不安感の軽減のため」といった病の基本骨格が見えてきました。

さまざまな症状は、不安→頻食的過食→首以上の熱を反映するものだと考えられました。

 

そこでこれを納得していただくために、当院なりの筋力反射テスト(形はO-リングテストと同じ)を行いました。まず、大好きなピリ辛類であるキムチとか唐辛子、豚肉・鶏肉・牛肉、

それに酎ハイ等々と発音していただくと、O-リングを形作る二本の手指の力が抜けて、O-リングは開いてしまいます。次に、リンゴや黒ゴマや黒豆とかを発音していただくと

手指に力が入って、O-リングはガッチリと締まります。これは言霊に体が反応して

体にプラスなものは体が喜んでリラックスするのでO-リングの指に力が入り、

マイナスなものは体が拒否して緊張するのでO-リングの指に力が入らないという反応です。

 

また、ピリ辛類や肉類・アルコールは氣を上げるのに対して苦味の漢方薬は氣を下げるので、

黄柏(おうばく)という苦味の入った封髄丹という薬の名前を発音すると指の力が強化されて

O-リングはグッと締まります。ほかに安心に働く漢方で本人に適合するものでも

O-リングは締まります。

このような形で飲食の問題点や漢方薬の適否をチェックするのですが、

心にとらわれのないオープンマインドであればその時点でのほぼ正確なチェックができます。

 

この筋力反射テストですが、有名なところではテニスの絶対王者と言われたジョコビッチの

アプライドキネシオロジーがあります。ジョコビッチは以前は試合中に倒れることが

何度もあったそうですが、ある博士がジョコビッチに左手を腹に当てさせて

右腕を横に伸ばすように言いました。そして博士がその右腕を下に押し下げるように

力を加えることに対して下がらないように抵抗するよう命じました。ジョコビッチは力が強く

右腕は下がりませんでした。ところが次に、博士がジョコビッチに左手にパンを持って

それを腹に当てるように言い、そして同じように右腕を下に押し下げようとすると今度は簡単に

博士に押し下げられてしまったのです。これでジョコビッチがグルテン不耐症であることが分かり、以後パンを避けることで倒れなくなったということです。ジョコビッチは博士による

アプライドキネシオロジーの所作に対して最初は信じがたいものでしたが、

納得した後はパーティーなどで自らアプライドキネシオロジーを応用した余興を行ったそうです。

詳細は『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(タカ大丸訳、三五館、2015年)をご参照ください。

 

さて、今回の女性はこのような診療によって飲食と心の持ち方が病をもたらすことを学ばれたと思います。そして、筋力反射テストによって自分だと思っている「自我の自分」ではわからないことを

もう一人の「真我の自分」が知っていることも学ばれたと思います。

「自我の自分」と「真我の自分」とが対話できることを知り始められたのです。

「真我の自分」というのは白隠禪師の「衆生本来仏なり。水と氷の如くにて、水を離れて氷なく、

衆生の外に仏なし・・・」で始まる坐禪和讃で説く「仏なる自分」です。

「自我の自分」のもつ知性ではわからないことを「真我の自分」は何でも知っているのです。

そんな仏なる自分あるいは神なる自分が、実は生まれる前からも死んでからも存在しており、

自我の自分の成長と幸せのために存在していることを知るきっかけを、今回の診療で

体感・体験されたということです。このあたりのことは、『自分へと続く道  体心点の発見』(大伴由美子著 地湧社2013年)の「遥かなる日々に」という詩が参考になると思います。

この女性は素直な方だからと思いますが、再診時には精神的にはだいぶ楽になり食生活の改善もあって体重も減り始めていました。

もちろん、まだまだ調子が良くなったり悪くなったりの波はあるでしょうが、坐禪和讃や

「遥かなる日々に」を何度も読んで潜在意識に沁み込ませることで、不安の軽減・解放、

自信の芽生えに伴って症状の改善、運命の改善が少しずつですが見られるようになると思います。

一種の認知行動療法です。

 

他に、越中おわら節の「浮いたか瓢箪(ひょうたん) 軽そうに流れる 行先ゃ知らねど あの身になりたや」といった唄や、讃美歌291「主にまかせよ」等の記載された拙著『円通毉療の日常臨床』もご紹介しました。この本を指さすだけでも、筋力反射テストでグッと指が締まることも体感されました。

前者の越中おわら節は、瓢箪のように自我が空っぽになって瓢箪と言う真我のなりゆきに任せれば、急流でも激流でも飄々(ひょうひょう)と流れて(人生を歩んで)いくことができますよと唄っています。「自我の自分」は「自我の自分」なりに真心を込めて人生を生きていけば、後は

空っぽになって「真我の自分」中心に生きればいいのだよということです。

 

後者の讃美歌は、➀「主にまかせよ 汝(な)が身を 主はよろこび助けまさん 忍びて春を待て 雪はとけて 花は咲かん 嵐にも闇にも ただまかせよ 汝が身を」、➁「主にまかせよ 汝(な)が身を 主はよろこび助けまさん 悩みはつよくとも みめぐみには 勝つを得じ まことなる主の手に ただまかせよ 汝が身を」という歌です。主は「天にまします我らの父よ」と主の祈りにありますが、実は自分も小さな主(主の子であり主の縮図)なのです。それは真我のことです。その真我に任せましょうということです。

 

今回ご紹介したような診療を通じて、自分の中に存在する真我に氣づいていただくことが、

直面する病の治療に止まらず、昨今の不安な時代を生きていくうえで大いに役立つのではないかと

考えます。

 

その真我ですが、白隠禪師の坐禪和讃に、「衆生本来仏なり。水と氷の如くにて、水を離れて氷なく、衆生の外に仏なし・・・」とあるように、氷は個々別々の自我で様々な形や大きさを呈しますが、水は個々別々の自我を超えた普遍的な存在である真我です。この真我は自分であると同時に他人でもあるのです。これも日常診療で体感・体験していただけます。

 

例えば、患者さんの指が痛くて筋力反射テストができない場合、付き添いの方に患者さんから

離れた所から患者さんを左手で指差していただき、患者さんに言霊を発していただいたり

薬や本を指差していただいた時の付き添いの方の右手の指を使って筋力反射テストをするのです。

すると付き添いの方の指を通して患者さんに関する結果がちゃんと得られるのです。

また、これは融通念仏の原理ですが、患者さんに南無阿弥陀仏とか南無妙法蓮華経とか

ありがとう或いはアーメンその他種々真言等の言霊を発していただくと筋力反射テスト

指がガッチリと締まりますが、患者さんの代わりに付き添いの方が患者さんに向かって

同じ言霊を発していただいてもやはり患者さんの指がガッチリと締まります。

患者さんと付き添いの方は見かけは個々別々(氷)ですが、みんな一つ(水)であることがわかるのです。言霊は空間を超えて融通するのです。

もう一つは、ある薬がある時点で適すると筋力反射テストで確認します。

ところが一定の期間を経た後では飲食や精神状態の変化あるいは氣候の変化などによって

合わなくなることがあります。すると筋力反射テストで筋力は低下して弱くなります。

ところが以前の適合していた期日を言霊で発すると指はガッチリ締まります。

これは言霊が時間をも超えるということです。こうしたことを積み重ねていくにしたがって

真我の理解が深まっていきます。