長い年月を経て、ようやく迎えた結婚の日。あの日、たくさんの祝福を受けた幸福感は、まだ二人の中に温かく残っていた。
だからだろうか。以前なら少し照れてしまった言葉も、今は口にできる。相手の愛情を感じれば、遠慮せずにそれを喜び、自分からも伝えたくなる。
二人は今、愛する人と夫婦になれた幸せを、毎日の何気ない時間の中で、何度も確かめ合っている。
ポニーの家に向かう前日。
キャンディはそのうちの一つを持ち上げ、鞄の中へ入れてみた。少し場所を変え、隣にもう一つ入れる。けれど、最後の包みが収まらない。
「……どうしよう」
先生方への贈り物と、子どもたちへのお土産。みんなの顔を思い浮かべながら用意していたら、思っていたよりも荷物が多くなってしまった。
「入らないのか?」
振り向くと、テリィが部屋へ入ってきた。
「あと、これだけなんだけど」
キャンディが包みを示すと、テリィは鞄の中を覗き、その一つを持ち上げた。
「これは俺のほうへ入れよう」
「いいの? あなたの荷物は?」
「まだ入るよ」
テリィは自分の鞄を開き、衣類の間へ包みを収めた。
「これでいいか?」
「ええ。ありがとう」
ほっとして、キャンディは残りの荷物を整えた。
テリィはその隣に腰を下ろす。机の上に重ねてあった写真へ手を伸ばし、一枚を取った。
教会の前で撮った、結婚式の日の写真だった。
純白のドレスを着たキャンディが、自分の隣で笑っている。
テリィの手が止まった。
キャンディも、その写真を覗き込む。
「それ、先生たちに見せたいの」
「それはいいことだ」
「みんなで写ってるのも持っていくけど、まず、これを見てもらおうと思って」
テリィは頷いた。それでもしばらく、写真から目を離さなかった。
「……何?」
キャンディが尋ねると、彼は写真から顔を上げた。
「きれいだったなと思って」
キャンディの頬が、ふっと赤くなる。
「もう。今は写真の話になってしまったけどね」
テリィは微笑み、もう一度写真へ目を落とした。
キャンディは彼の肩に軽く触れた。
「先生たちにも、見てもらいたかったな」
「ああ。だから、よく見てもらおう」
テリィは写真を彼女に返した。
「話も、たくさんすればいい」
その言い方が優しくて、キャンディは笑った。
写真を厚紙に挟み、手提げ鞄へ入れる。旅行鞄もようやく閉じると、テリィが彼女の手を取った。
「楽しみだな」
「ええ」
「今度は二人で行こう」
キャンディは彼を見た。
自分ばかりが楽しみにしているのだと思っていたわけではない。それでも、彼の口からそう聞けたことがうれしかった。
「先生たち、きっと喜んでくださるわ」
「俺も、ちゃんと報告したい」
つないだ手に、少し力がこもった。
キャンディは頷き、彼のそばへ寄った。
翌日。ポニーの家に向かう寝台列車で案内された客室へ入ると、キャンディは入口で足を止めた。
窓の下には長いソファがあり、その向かいには椅子が置かれている。磨かれた木の壁に、柔らかな色の布張り。荷物を置いても、二人がゆっくり座れるだけの場所があった。
「……ここ?」
「うん。ここだ」
テリィが荷物を置く間も、キャンディは室内を見回していた。
「このお部屋で向かうの?」
「ん?そうだよ」
キャンディは後ろを振り返った。今入ってきた扉を、そっと閉めてみる。
廊下を行き交う人の姿が見えなくなった。
「いつも乗るのは一般客室だから座席が向かい合っていて、夜になると寝台にしてもらってカーテンを閉めて……」
キャンディはソファへ近づき、座面に手を置いた。
「ここが、夜はベッドになるの?」
「ああ。この客室では係の人が用意してくれる」
「まぁ!自分でやらないのね?!」
彼の顔を見て、それからまた室内を見渡す。
小さな扉の向こうを覗いたキャンディが、驚いたように振り返った。
「洗面所まであるわ」
「気に入った?」
「ええ。でも……」
キャンディはテリィのそばへ戻った。
「こんな立派なお部屋にしなくても、よかったのに」
テリィは彼女の腰へ手を添えた。
「きみとゆっくり過ごしたかったんだ」
閉じた扉へ目を向け、それからキャンディを見る。
「新婚旅行には、まだ連れていけないからな。せめて、汽車に乗ってる間くらいはと思って」
キャンディの表情が柔らかくなった。
「そのために?」
「ああ」
キャンディが笑うと、テリィも微笑んだ。
腰を抱く手に引き寄せられ、キャンディは彼の胸へ手を置いた。
「……ありがとう、テリィ」
彼はその額へ口づけた。
キャンディはしばらく彼に寄り添っていたが、やがて顔を上げた。
「でも、もう少し見てもいい?」
「ああ。全部見ておいで」
キャンディは彼の手を取り、窓際へ向かった。
「あなたも一緒に」
「俺も?」
「ええ。ここ、座ってみましょうよ」
二人でソファに腰を下ろすと、キャンディは座面の柔らかさを確かめ、それからテリィへ肩を寄せた。
「……気に入ったわ」
「部屋が?」
「それもだけど」
キャンディが彼を見上げる。
「あなたと、ここにいられること」
テリィは微笑み、彼女の肩を抱き寄せた。