それまで食事や歓談の邪魔にならないよう穏やかな曲を奏でていた楽団が、ゆったりとしたダンスの曲へ移った。

招待客の何人かが気づき、楽団の方を見る。

披露宴も終盤へ差しかかっていた。

食事のために整然と並べられていた椅子の多くはすでに空き、給仕たちは使い終えた皿やグラスを手際よく下げている。

宴会場の中央には、人が踊れるほどの空間ができていた。

エヴリンとの話について、キャンディもテリィも何も言わず、微妙な空気が二人の間に漂っていた。

二人はその話題に触れないまま、流れ始めた曲をしばらく聞いていた。

やがて、テリィが手にしていたグラスを近くのテーブルへ置く。

「行こう、キャンディ」

「え?」

キャンディが顔を上げた。テリィが手を差し出している。

「……どこへ?」

「踊るんだよ」

キャンディはテリィの手を見た。

それから宴会場の中央を見る。

まだ誰も踊っていない。

「でも……誰も踊ってないわよ」

「俺たちが最初だからな」

「私たちが?」

「ファーストダンスってことだよ」

キャンディはもう一度、広く空いた中央へ目をやった。

途端に心細そうな顔になる。

ただでさえ今は、テリィの顔をまともに見られないというのに。

大勢の人が見ているところで、二人きりで踊るなんて。

「私、ちゃんと踊れるかしら」

「大丈夫。俺も久しぶりだから。お互い様だ」

「でも……」

テリィは何も急かさず、手を差し出したまま待っていた。

キャンディは少しためらってから、その手に自分の手を重ねた。

テリィの指が包む。

それだけで、また胸が落ち着かなくなった。

二人が中央へ歩き出すと、それに気づいた招待客たちの視線が集まった。

やがてテリィがキャンディの腰へ手を添え、曲に合わせて一歩を踏み出す。キャンディも遅れないようについていく。

最初は少しぎこちなかった。それでもテリィのリードに任せているうちに、どうにか形になってくる。

周囲から歓声が上がった。

キャンディはますます恥ずかしくなり、思わず辺りを見回した。

アニーが笑っている。アーチーもこちらを見ている。

「みんな見てる……」

「そりゃ見るだろうな」

「恥ずかしいわね、ファーストダンスって。アニーはよくこんなところで踊れたわね」

言いながら、キャンディの目はまた別の方へ逃げた。すると。

「俺だけ見てて」

低い声がした。キャンディの視線が戻る。

「え?」

「今日は俺しか見えてなくてもいい日なんだから」

テリィが見ていた。まっすぐに。

キャンディは一瞬、息を止めた。

さっきから避けていたその目と、ようやくまともに向き合ってしまった。

テリィはただ、キャンディを見ている。

「俺は今は、きみしか目に入れたくない」

テリィはそう言って、ほんの少し笑った。

「言うの今になったけど……とてもきれいだよ」

曲の流れに合わせるように、キャンディの耳元へ顔を寄せて囁く。

「……テリィ」

キャンディの頬が赤くなった。

「何よ、急に」

「思ったから言っただけだぜ」

「そういうこと、もっと普通に言えないの?」

「普通に言ったつもりだけど」

「耳元で言う必要ないでしょう」

「みんなに聞かせてもよかったのか?」

「それはもっと嫌!」

テリィが笑った。キャンディも、とうとう笑った。

その瞬間、二人の間に残っていたわずかなぎこちなさがほどけた。

さっきまで胸の中に引っかかっていたことも、遠くなる。

テリィの手に導かれ、身体の向きを変える。

いつの間にか、キャンディはエヴリンのことも足元のことも気にしなくていいと思った。

「……あ、そういえば」

「どうした?」

「なんだか……思い出しちゃった」

「何を?」

キャンディはテリィを見た。

今度は、もう目を逸らさなかった。

「昔も、こうして踊ったわね」

テリィの目がわずかに細くなる。

同じ記憶に辿り着いたのだと、すぐに分かった。