会場から小さな笑いが起こった。後援者の一人が言う。

「あれ、学生じゃないか?」

「確かに、そう見えるね」

キャンディは笑えなかった。

テリィが時計を見てすぐにしまう。まだ時間はあるようで、木にもたれたまま待つ。やがて退屈したらしく、上着のポケットへ手を入れ、煙草を一本を口にくわえ、今度はマッチを取り出すと、慣れた仕草で火をつけようとして――ふと、手が止まった。ほんの一瞬、口元にくわえた煙草を見る。それから、誰かに何かを言われたように、わずかに眉を寄せた。

キャンディの胸の奥が、小さく跳ねた。覚えている。あの丘で、テリィが吸っていた煙草を取り上げたこと。

さらに目の前の少年は、口にしていた煙草も取り、少し眺めてからポケットへ戻し、何もなかったように、少年が再び木へ背中を預けた。そして足元に小石を見つけると、靴先で軽く蹴った。転がった石を目で追う。しばらくして、また学院の建物がある方向を見る。

キャンディはもう完全に分かっていた。この場所は、にせポニーの丘のあの木だということを。

そして、テリィはあそこで誰かを待っている。彼が待つのは……私だ。キャンディの頬が熱くなった。

テリィの芝居は続いていた。再び時計を今度は少し長く見て、待っている方向を見る。だが来ないことに少しずつ、少年の中に苛立ちが生まれていく。

キャンディの胸がきゅっとなる。

あの日、シスターから突然、用事を頼まれた。すぐに終わると思っていたが、思いのほか時間がかかってしまった。テリィと約束していると言えるはずもないし、誰かに伝言を頼むこともできない。

テリィが突然顔を上げた。何かを聞いた顔をした。会場は静かで、楽団も演奏を止めている。鐘など鳴っていないが、それでも全員に伝わった。

「始業の鐘か?」

その瞬間、何もなかったはずの空間に、学院の風景が立ち上がった。丘の下に続く道、その先にある校舎。午後の授業へ急ぐ生徒たち。風に揺れる木の葉。もちろん、そのどれも実際には存在しない。

聞こえないはずの鐘と同じように、すべてはテリィの仕草と視線が見せているものだった。

けれど会場にいる誰もが、少年が戻らなければならない場所が、丘の向こうにあることを知っていた。

テリィは最後にもう一度、丘へ上がってくるはずだった道を見る。ほんの一瞬、少年の顔に落胆が浮かんだがすぐに消した。

テリィの視線を追うように、招待客たちの目まで同じ方向へ向いたが、そこには誰もいない。けれど不思議なことに、その道を上ってくるはずだった誰かの姿だけが、かえって鮮明に感じられた。

木から背中を離し、歩き始め丘を下りる。テリィは教室へ戻っていく。少し不機嫌そうに。

誰かとすれ違う。そのまま通り過ぎようとしたとき相手が何かを言った。テリィの足が止まり、振り向く。

「……何?」

初めて声を発した。相手の話を聞く。そしてほんの一瞬、目が動いた。

「……そうなんだ」

それだけだった。けれどそれまで少年の中にあったものが、すっと消えた。

不機嫌さや落胆した気持ち。もしかしたら約束を忘れられたのかもしれないという、小さな傷。

代わりに、口元がほんの少し緩んだがそれを隠した。相手には気づかれたくないらしい。数歩進んだところで、誰にも見られていないと思ったのだろう。ほんの少しだけ笑った。

キャンディの顔が一気に熱くなった。相手が約束を忘れたわけではなく、来たくなかったわけでもなく、急に用事を頼まれたから来れなかったのだ。

それを知っただけで、こんなにうれしそうにしていたなんて。

「かわいいわね」

女性客の一人が言った。隣の女性客も、

「ええ。男の子、来なかった理由が分かったのねきっと、だからあんな顔になった」

別の女性も頷く。

「相手の女の子が好きなのね」

キャンディは両手で顔を隠したくなった。

テリィが教室の扉を開ける仕草をして、もう一度だけ振り返る。遠く、先ほどまでいた丘の方向へ。そして、ほんのわずかに笑い、そのまま扉の向こうへ消え、芝居は終わった。

テリィがいつもの姿勢に戻る。その瞬間、丘も、木も、学院も消え、制服姿の少年もいない。そこにいるのは、正装したテリィだけだった。

誰も反応がなく、ほんの一瞬、困ったような顔になる。だが次の瞬間、割れんばかりの拍手が起こった。

「ブラボー!」

「さすがグレアム!」

招待客たちが次々と立ち上がり拍手している。

「あれは丘を登ったんだろ?私には丘が見えた!」

誰かが叫んだ。

「そしてあれは学校だ!鐘まで聞こえたぞ!」

別の後援者が興奮して言う。

「女の子を待ってたんだ。くるはずだった道まで分かった!」

年配の後援者が、隣にいたスポンサーへ言った。

「グレアム君はあそこに丘を作り、学校を作り、授業が始まる時刻まで作った」

スポンサーが頷く。

「そして、姿のない少女も」

「そうだ。どんな子だと思う?」

年配の男が少し考える。

「あの少年にとっては特別な子だ」

「私もそう思いました」

「まだ恋人じゃない。だからこそ、来なかったことがあれほど気になったんでしょう」

テリィが戻ってきて椅子へ座る。

「疲れた……キャンディ?」

キャンディは横を向いた。返事をしない。

「どうした?」

「知らない」

「怒ってるのか?」

「怒ってないわよ」

テリィが顔を覗き込む。赤くなったキャンディの頬を見る。そして、少し考えると口元が上がった。

「……気づいたのか?」

「気づくわよ!」

テリィが笑いを堪えている。

「どうして、にせポニーの丘なのよ」

「お題に合ってたから」

「だからって!」

「実際、待ってたし」

キャンディは言葉に詰まる。

「……あんなに?」

テリィの笑いが少し消えた。

「何が?」

「あんなに待ってたの?」

「時間にしたら大したことない」

「そうじゃなくて」

キャンディは小さな声になった。

「私が来なかったとき……あんな顔してたの?」

テリィは答えなかった。

少しだけ前を見る。向こうでは、まだ後援者たちが今の芝居について話している。

やがてテリィが言った。

「あの日、忘れられたのかと思った」

キャンディがテリィを見る。

「……ごめんね」

「何で謝るんだよ。シスターに頼まれたんだろ」

「でも、知らせられなかったから」

「だからそれを聞いたとき、安心した」

キャンディの頬がまた熱くなる。

「ばか。今教えてくれなくても……」

けれどその声は、恥ずかしさとうれしさが混ざり合い、言葉とは裏腹に怒ってなどいなかった。