ニューヨークの住宅街に建つ、小さな教会。
石造りの壁、小さな尖塔、重い木の扉。
今日ここで、自分はキャンディと結婚する。
「グレアムさん」
教会の者に声をかけられ、テリィは振り返った。
「皆さん、そろそろお見えになっています」
「はい、ありがとうございます」
テリィは扉へと向かった。
中へ入ると、外の街の音が遠くなった。
朝の光がステンドグラスを通り、床へ淡い色を落としている。
百人も入ればいっぱいになるほどの礼拝堂には、すでに何人もの人が集まっていた。
今日ここにいるのは、本当に近しい者たちだけだ。
劇団からは、団長や経営陣、演出家、脚本家、そしてマイケルやケビン、ヴィクターなどごく親しい仲間だけ。
その中から、見慣れた顔がこちらへ向いた。
ケビンが片手を上げる。テリィが笑って答える。
その隣にはマイケル。
「おはよう、テリィ」
「ああ、おはよう」
マイケルはテリィの姿を上から下まで眺めた。
「似合ってるじゃないか」
「似合わなければ困る」
真面目に言うテリィが少し可笑しくてケビンが笑う。
「弟たちは?」
テリィが尋ねる。
「もう並んでるよ」
マイケルが客席の一角を示した。
見ると、ジョージとローレッタがいた。
二人とも正装している。
ローレッタがこちらに気づき、うれしそうに手を上げかけたが、周囲を見て途中でやめ、代わりに小さく笑う。テリィもわずかに手を上げた。
遠いイギリスから来てくれた弟と妹。
幼い頃には、自分の意思だけでは近付くことさえできなかった二人が、今日はここにいる。
「ありがとう、マイケルも。キャサリンさんも。弟たちを連れてきてもらって」
「いいよ、大丈夫」
キャサリンは前列のローレッタとなにかを話している。
「あ、そろそろ時間になる。持ち場につけよ」
教会の者に促され、ケビンがテリィを見る。舞台と同じ言い方で少し笑う。
「それじゃ、行くぞ」
「ああ」
二人は祭壇へ向かった。
*
祭壇の前に立つと、礼拝堂全体がよく見えた。
何百、何千という人間の視線を受けることにも、もう緊張はしないが、今日は、妙な感じだった。
テリィは客席へ目を向けた。
劇団の団長に経営陣、演出家と脚本家。
その一人ひとりを見ているうちに、不意に昔のことを思い出した。
あの日、キャンディを学院に残すために、自分が去ることを選んだ。
けれど、それだけが理由ではなく、いつかはグランチェスター家を出ていかなければならないと思っていた。
あの頃の自分が、今日の自分を見たらどう思うだろう。
ブロードウェイで主演を務める俳優になり、仲間たちに囲まれ、白いタキシードを着て祭壇の前に立っている。
テリィの口元に、わずかに笑みが浮かんだ。
参列者たちが、少しずつ静かになっていった。
話し声が小さくなり、皆が席へ着いていく。
テリィはもう一度、客席を見渡した。
自分一人でここまで来たわけではない。
キャンディもそうだ。
それぞれ別の場所で、それぞれ多くの人に支えられて生きてきた。
その二つの道が、今日ここで一つになる。
ケビンが隣で小さく息を吐いた。
「そろそろ、新婦側が到着する頃だな」
「ああ」
静かな礼拝堂。祭壇の前でその瞬間を待っている。
やがて扉が開かれ、人が入って来る。
参列者たちが一斉に顔を向ける。
ケビンが隣で姿勢を正した。
テリィもまっすぐ前を向く。
キャンディ側の参列者たち、アーチーやアニー、パティ、エルロイなどのほか、ジョシュアもポニーの家代表で参列する。
そして――しばらく静寂が続いたのち、
オルガンの最初の音が、静かな礼拝堂に響いた。