挙式まで、あと三日。午前のニューヨークの駅には、長い旅を終えた乗客たちが次々と降り立っていた。その人波の中に、アーチーとアニーの姿があった。
「やっと着いたな」
ホームへ降りたアーチーが大きく息を吐く。
「やっぱりシカゴからニューヨークは遠いわね」
アニーも辺りを見回した。何度か訪れたことのある街ではあるが、今日は、いつもとは少し違って見えた。
この街で、キャンディが結婚する。そのために来たのだと思うだけで、不思議な気持ちになった。
「車、来てるはずだ」
アードレー家で手配した車が、駅の外で待っていることになっていた。
二人は荷物を預けると、そのまま車へ乗り込んだ。けれど向かう先はホテルではない。
「港までお願いします」
アーチーが運転手へ告げた。
今日、ニューヨークへ到着するのは二人だけではなかった。パティの乗った船も、この日の午前中に入港する予定になっている。
せっかくなら到着時間を合わせよう。そう決めた三人は、ニューヨークで合流することにしていた。
車が市街地を抜け、港へ向かっていく。アニーは窓の外を見ながら言った。
「キャンディ、今頃どうしてるかしら」
「いろいろ準備してるんじゃないか?」
あのキャンディが本当に花嫁になる。いよいよ現実味を帯びてくる。
やがて車はニューヨーク港へ着いた。大きな船から、乗客たちが次々と降りてくる。アニーは懸命に人の中を探した。
「パティ、どこかしら」
しばらくして、アニーが突然声を上げた。アーチーもそちらを見る。
「あっ!パティ!」
帽子をかぶり、鞄を手にした女性が、ちょうどこちらへ向かって歩いてきていた。その顔も、二人に気づくとぱっと明るくなる。
「アニー!」
アニーはすぐに駆け寄った。
「パティ!」
二人はしっかりと抱き合う。
「久しぶり!」
「本当に!」
「長旅、大丈夫だった?」
「ええ。でも、さすがに少し疲れたわ」
「ようこそ、アメリカに」
後ろから来たアーチーが笑う。パティが彼を見る。
「アーチー!」
「久しぶり」
「本当に久しぶり。二人の結婚式以来ね」
「元気そうでよかったよ」
パティはアーチーの顔を見ながら、懐かしそうに笑った。三人がこうして顔を合わせるのも久しぶりだった。
それぞれ別の場所で暮らし、別の時間を重ねてきた。それでも顔を合わせれば、不思議なくらいすぐに昔へ戻れる。
「キャンディのところに行くのよね」
パティが尋ねる。アニーが笑った。
「ええ、待ってると思うわ」
三人はパティの荷物を車へ積み、そのままマンハッタンへ向かった。車の窓の外を、ニューヨークの街並みが流れていく。
車はやがて、マンハッタンの一角にある建物の前へ停まった。パティが窓から見上げる。
「ここ?」
「みたいね」
アニーも見上げた。アーチーは黙って建物を眺めた。想像していたより、はるかに立派だった。
一行は中へ入り、上階へ向かった。エレベーターが止まる。アーチーが呼び鈴を鳴らすと、すぐに足音がして、扉が開く。
「いらっしゃ――」
キャンディの声が止まる。一瞬目を大きくする。
「……パティ!」
「キャンディ!」
次の瞬間、キャンディはパティへ飛びついていた。
「会いたかった!」
「私もよ!」
「本当にパティなのね!」
「もちろんよ」
二人は抱き合ったまま笑う。けれど、すぐに目には涙が浮かんでいた。
「元気だった?」
「ええ!」
「船酔いしなかった?」
「少しだけ」
「やっぱり!」
アニーがにこやかに割って入る。
「キャンディ。私たちもいるんだけど」
キャンディがはっとする。
「アニー!」
今度はアニーへ抱きつく。
「久しぶり!」
「キャンディ!」
「会いたかったわ!」
「私も!」
アーチーは腕を組んで、その様子を見ていた。やがてキャンディが彼を見る。
「アーチー!」
「俺には抱きつかなくていいよ」
「あはは。何よ、それ!」
「いや、念のため」
キャンディは笑いながら、アーチーの腕を軽く叩いた。
「久しぶり!」
アーチーも笑った。
「元気そうだね」
「もちろん!」
「その顔見れば分かるよ」
「どういう意味?」
「幸せそうって意味」
一瞬、キャンディの顔が赤くなった。
「もう!」
そのとき奥からテリィが現れた。
「ずいぶん賑やかだな」
パティがそちらを見る。少しだけ緊張する。同じ学院に通っていた頃も、舞台の上では見たことのあるテリュース・グレアムもパティには遠い存在だ。
テリィが尋ねた。
「パトリシアだよな。学院以来だから、ずいぶんと久しぶりだ」
パティが驚く。
「私のこと、覚えていたの?」
テリィは笑った。
「もちろん。キャンディといつも一緒にいたし。キャンディからもよく話が出る。遠いところありがとな」