「キャンディがまだ小さかった頃な。畑の向こうに大きなリンゴの木があって――」
「その話は駄目!」
キャンディが慌てて遮る。テリィはイタズラっぽい瞳を向ける。
「どうして?」
「え?な、なんとなく」
「そりゃ、ますます聞きたいな」
「テリィ!」
男性はニヤリと笑うと構わず続けた。
「一番上の枝になってるリンゴが一番甘いって言い張って、するする木に登っていったんだ」
テリィがキャンディを見る。
「……きみならやりそうだ」
「昔の話よ!」
「ところが、登ったはいいが降りられなくなってな」
「まだ、その頃は登るだけで降りられなかったのよ」
キャンディが観念してポツリと言う。
「そうなんだ。降りられなくなってしまって、枝から納屋の屋根へ飛び移って、そこから干し草の山へ飛び降りたってわけだ。そしたらその拍子に干し草の山をひっくり返してな、キャンディは干し草だらけになっちまったんだ」
テリィが声を上げて笑った。
「笑わないでよ!」
テリィは笑いながらキャンディを見る。
「その頃からもう俺の知ってるキャンディなんだな」
「どういう意味よ!」
男性は二人を見比べながら、楽しそうに目を細めた。
「まあ、昔からこんな娘だ。退屈だけはしないぞ」
テリィは笑いを残したまま頷いた。
「はい。もうよく知ってます」
「テリィ!」
畑に、また大きな笑い声が響いた。
男性は続ける。
「ま、最近はちょっとはお淑やかになったようだな、キャンディも。チビたちに付き添ってくる良いお姉さんになった」
「みんなでお手伝いしてるの」
「へえ」
「草を抜いたり、じゃがいもを掘ったり、収穫した野菜を運んだり」
男性が豪快に笑った。
「手伝いって言っても、半分は遊びになっちまうがな」
「あはは、確かに」
キャンディは苦笑いする。子どもたちにとって、土いじりは遊びなのだ。
「去年なんか、じゃがいもを掘るはずが、誰が一番大きなミミズを見つけられるかって競争になってたしな」
テリィが笑う。
「でもちゃんと最後まで手伝ってくれたよ、チビたち。だから帰りには、採れた野菜を持っていってもらうんだ。ポニーの家は食べ盛りが大勢いるからな」
キャンディも笑った。
「この間は、籠いっぱいのじゃがいもと玉ねぎをいただいたの」
「なるほど」
テリィは畑を見渡した。
手紙の中で何度も読んできた、ポニーの家での暮らし。
けれど、こうして実際にその場所を歩いてみると、少し違って見える。
キャンディと子どもたちがこの畑で笑いながら土にまみれている姿が、容易に想像できた。
「今度は、あんたも一緒に来るといい」
突然そう言われ、テリィが自分を指差した。
「男手は多いほうが助かる」
キャンディがくすくす笑う。
「よかったわね、テリィ。仕事ができたわよ」
「俺が失業したらお願いしよう」
「働かざる者、食うべからず、だしね」
三人の笑い声が畑に広がった。
やがて男性と別れ、二人は再び歩き出す。
少しして、テリィが言った。
「いいところだな。来れて本当に良かった」
「テリィ……」
キャンディが彼を見る。
テリィは畑を振り返った。
「ポニーの家だけじゃないんだな。村のみんなで、子どもたちを見てるんだ」
キャンディはテリィを見つめ、それから柔らかく笑った。
「うん」
そして、どこか誇らしそうに続けた。
「だから私、この村が好きなの」
テリィはその横顔を見つめた。
キャンディがここへ戻ってきた理由が、分かった気がした。
やがてキャンディは、また道の向こうを指差した。
「あっ、あそこ。昔ね――」
そして新しい思い出を話し始める。
テリィは時々質問し、時々笑いながら耳を傾けた。
キャンディがどんな道を歩き、どんな人たちに囲まれ、どんな毎日を過ごしてきたのか。
遠く離れていた年月が、ひとつずつ景色を持ちはじめる。
「テリィ、次はこっち!」
繋いだ手を引かれる。
「あっちにね、まだ見せたいところがあるの」
テリィは素直についていった。
彼女が生きてきた場所を、彼女の手に引かれながら歩いていく。
それがテリィには、何よりうれしかった。