キャンディはしばらくその背中を見送っていた。
そして何事もなかったように歩き出す。
テリィも隣を歩いた。数歩進んだところで、彼が言った。
「キャンディ」
「なあに?」
「どうして手を離した?」
キャンディの足が一瞬止まりそうになる。
「……え?」
「さっき、俺の手を解いただろ」
「……ああ」
明らかに分かっている顔だった。
「別に、なんでもないわ」
「別に?」
「ほら、挨拶するから、ね」
「手を繋いだままでも挨拶はできる」
「それは……そうだけど」
テリィは横から彼女の顔を覗き込んだ。
「俺と手を繋いでるところを見られるのが嫌なのか?」
「違うわよ!」
キャンディは慌てて否定した。
「じゃあ、どうして?」
「だから……」
もじもじと視線を逸らす。
「ここでは、みんな私のことを小さい頃から知ってるのよ」
「それが?」
「それがって……」
キャンディはますます困った顔になる。
「なんだか恥ずかしいの!」
「何が?」
「だから!」
キャンディはとうとう足を止めた。
「ずっと知ってる人たちに、男の人と手を繋いで歩いてるところを見られるなんて……恥ずかしいでしょう?」
テリィはしばらく黙って彼女を見た。それから口元を緩めた。
「ニューヨークじゃ平気だったのに?」
「ニューヨークでは誰も私を知らないもの」
「なるほど」
「それに、ここじゃ明日にはポニーの家まで話が届くわ」
「もう婚約したって知ってるんだから、いいじゃないか」
「そういう問題じゃないの!」
テリィは笑った。
「笑わないでよ」
「いや。なんか、かわいいなと思って」
「もう……」
キャンディは顔を赤くして歩き出した。
ところが数歩進んだところで、テリィがまた彼女の手を取った。
「テリィ!」
「今は誰もいない」
「そういうことじゃ……」
「じゃあ、誰か来たら離せば?」
からかうように言われ、キャンディは頬を膨らませたけれど、手は振りほどかなかった。むしろ指先を絡めるように、そっと握り返した。
テリィは何も言わず、その手を握ったまま歩いた。
しばらく歩くと、道の向こうに広い畑が見えてきた。
青々とした葉が風に揺れ、その向こうでは一人の男性が腰をかがめて作業をしている。
キャンディが足を止めた。
「テリィ、ここも昔からよく来るの。今は、ポニーの家の子たちを連れてね」
その声に気づいたのか、畑の男性が顔を上げた。
「おや、キャンディじゃないか!」
「こんにちは!」
男性は手についた土を払いながら、うれしそうにこちらへ歩いてきた。
「久しぶりだな、キャンディ。今日はチビたちは一緒じゃないのか?」
「今日はお留守番です」
「そうか。あいつらが来ると賑やかでいいんだがなあ」
そう言って笑った男性の視線が、ふとキャンディの隣へ向いた。
「ところで――そちらは?」
キャンディはテリィを見上げた。
さっきまで何でもない顔をして手を繋いでいたくせに、いざ紹介するとなると、急に照れくさくなる。
「こちらは、テリュース・グレアムさんで……私の……婚約者です」
最後の言葉だけ、ほんの少し声が小さくなった。
テリィはそんなキャンディを横目で見てから、男性へ軽く頭を下げた。
「テリュース・グレアムです。初めまして」
「おお!」
男性の顔がぱっと明るくなる。
「話は聞いてるよ。キャンディが結婚するっていうから、村じゃちょっとした話題なんだ」
「えっ!?」
キャンディが目を丸くする。
「もうそんなに広まってるんですか?」
「そりゃ広まるさ。この村でキャンディを知らない奴なんていないんだから」
「もう……」
キャンディは恥ずかしそうに頬を染めた。
男性はそんな彼女を見て笑うと、今度はテリィへ向き直った。
「しかし、あんたも大変だな。キャンディの旦那になるんだろ?」
「ちょっと!」
キャンディがすぐさま声を上げた。
「いやあ、今じゃすっかり立派になったけどな。昔はそりゃあ、おてんばで」
「もう! 余計なこと言わなくていいです!」
テリィの目が途端に楽しそうになる。
「ぜひ聞きたいですね」
「テリィ!」
「俺の知らないきみの話だろ?」
男性は待ってましたとばかりに笑った。
「キャンディがまだ小さかった頃な。畑の向こうに大きなリンゴの木があって――」
「その話は駄目!」
キャンディが慌てて遮る。テリィはイタズラっぽい瞳を向ける。
「どうして?」
「え?な、なんとなく」
「そりゃ、ますます聞きたいな」
「テリィ!」