「フランクさん、言ってたわ」

「何を?」

「あなたが全然マネージャーを頼らないって」

「二人で何を話してたんだよ」

少し不満そうなテリィに、キャンディはくすくす笑う。

「でも、素敵な人ね」

その一言にテリィは頷いた。

「ああ。彼は信用できる」

そして少し真剣な顔になる。

「これから先は、今日みたいなことだけじゃないからな」

キャンディも彼を見る。

「俺たちのことが知られたとき、記者がどう動くか分からない。俺が舞台に立ってるあいだに何か起きることだってある」

テリィはごく自然に言った。

「俺がそばにいられないとき、きみが困ったら助けてもらえる人間が必要だ。キャサリンさんばかりに頼ってもいられないし、劇団内にも必要と思ってた」

キャンディは小さく微笑む。

「……テリィって、そんなことも考えてたのね」

「何だよ」

「ううん。ただ、なんだか……本当に結婚するんだなって思って」

キャンディはうれしそうに話す。

けれど、キャンディのその笑顔の奥を、ほんの一瞬だけ古い記憶が掠めた。


その言葉に、今度はテリィが黙った。

少しの沈黙。やがてキャンディは再びスープを口へ運んだ。

その違和感を深く考えずにキャンディはすぐにまた今日の舞台について話し始めた。

「あっ!」

「今度は何だよ」

「ねぇ!マクベスとロミオでね」

「俺、朝までに飯食い終わるかな」

「ちゃんと食べながら聞けばいいでしょう?」

「きみが喋ってるのを見てる方が面白いから、見惚れちゃうのさ」

あの台詞がよかった。

あの場面はどうやって転換しているの。

あの衣装は本番では違うの。

あそこでもう一度やり直したのはどうして。

次から次へと質問が飛んでくる。

テリィは一つ一つ丁寧に答える。

演出家が何を求めていたのか。

早着替えの裏で衣装係がどう動いているのか。

役から役へ切り替えるとき、自分が何を考えているのか。

自分が長い時間をかけて築いてきた世界を、彼女が知ろうとしている。

そして楽しんでいる。

そのことが、たまらなくうれしかった。

気がつけば、帰ってきたとき身体にまとわりついていた疲れも、ずいぶん軽くなっていた。

テリィはスープをもう一口飲む。

すっかり冷めかけていた。

それでも妙に美味かった。

目の前では、キャンディがまだ一生懸命今日の稽古について話している。

「それでね、テリィ――」

「うん」

テリィは頬杖をつき、微笑みながら彼女を見る。

「聞いてるよ」

舞台の上では、何百という視線を浴びる。

喝采も、批評も、称賛も受けてきた。

けれど今夜、テリィがいちばんうれしかったのは。

たった一人の観客が、冷めてしまった玉ねぎのスープを前に、それでも話をやめられないほど自分の舞台に夢中になってくれたことだった。