教会を見て回るようになってから、テリィの手紙には少し変わった話題が増えた。
舞台のことや劇団の仲間のこと、ニューヨークで見かけた出来事などは、以前からよく書いていた。
けれど最近は、その中に必ずと言っていいほど、二人の結婚についての話が混じるようになった。
――キャンディへ。
今日、また教会を見てきた。
夜公演まで少し時間があったんだ。
マネージャーに候補をいくつか調べてもらって、俺は人の少ない時間に中を見てる。
誰かに知られて新聞にでも書かれたら面倒だから、結婚式のことはまだ伏せてもらってる。
最初は正直、教会なんてどこもそれほど変わらないと思ってた。
でも、違うんだな。
大きくて立派なところもあれば、小さいけれど落ち着くところもある。
ステンドグラスがきれいだったり、古い木の長椅子が並んでいたり。
見ているうちに、ここをきみが歩いたらどうだろう、と考えるようになった。
今日は一つ、気に入ったところがあった。
午後になると窓から柔らかい光が入って、静かで、とてもいいところだった。
たぶん、きみも好きだと思う。
もちろん俺一人では決めないよ。
来月、案内を持っていく。
ほかにも二つあるから、きみが選んでくれ。
いや、一緒に選ぼう。
それにしても、自分がニューヨークの教会を見て歩くことになるとは思わなかった。
案外、楽しいのは、何を見てもその先にきみがいるからだと思う。
――テリィ
ポニーの家でその手紙を読んだキャンディは、思わず笑った。
教会の中を一人で歩きながら、あれこれ考えているテリィの姿が目に浮かぶ。
しかも人目を避け、帽子まで被っているという。
想像すると少し可笑しかった。
けれど、最後の数行をもう一度読むと、胸の奥が温かくなった。
――何を見てもその先にきみがいる。
今は離れているけれど二人は、もう同じ未来へ向かっている。
キャンディは便箋を取り出した。
――テリィへ。
お手紙ありがとう。
教会を三つも見つけてくれたのね。
忙しいのに、本当にありがとう。
でも、あなたが教会を見て歩いているところを想像したら、ちょっと笑ってしまいました。
だって学院にいた頃のあなたからは、とても想像できないんだもの。
あのテリィが結婚式の教会を探しているなんて。
それに、案外楽しいなんて。
あの時のあなたに教えてあげたいくらい。
でもね。私、とてもうれしい。
あなたが見ている教会を私はまだ見ることができないけれど、手紙を読んでいたら、少しだけ一緒に歩いたような気持ちになりました。
午後の光が入る教会。私も好きな気がします。
それから、日取りも決めましょう。
誰に来てもらうかも。
考えてみたら、決めることがたくさんあるのね。
私は、楽しいです。
――キャンディ
ポニー先生に胸の内を打ち明けてから、キャンディの中にあった苦しさは、少しずつ形を変えていた。
スザナへの罪悪感が、すべて消えたわけではない。
あの約束を破ったことも、自分だけが幸せになっていいのだろうかという迷いも、きっと簡単に消えるものではないのだと思う。
テリィも、自分も、生きている。
明日が来ることを、当たり前のように信じている。
けれど本当は、その明日さえ、誰にも約束されているものではない。
だからこそ、今ここにある時間を大切にしたい。
テリィと生きていける未来があるのなら、もうそこから目を逸らしたくない。
その返事が届いた日の夜。
公演を終えてペントハウスへ戻ったテリィは、ソファへ腰を下ろすなり封を開いた。
読み進めていくうちに、口元に笑みが浮かぶ。
そして、
――あのテリィが結婚式の教会を探しているなんて。
そこまで読むと、小さく吹き出した。
「悪かったな」
誰もいない部屋で呟く。
確かに、あの時の自分が今の姿を見たら、何と言うだろう。
自分から教会を探して歩いているなどと知れば、信じないだろう。
けれど、その相手がキャンディだと知ったら――。
少しは納得するかもしれない。
テリィは手紙を読み進める。笑みがゆっくりと深くなった。
もうすぐ会える。
プロポーズをした日から、まだそれほど経っていないのに、ずいぶん長く離れているような気がした。
でも今は、キャンディも同じ未来を見ている。
六月も終わりに近づいていた。公演はまもなく千穐楽を迎える。
幕が降りれば、しばらくまとまった休みがある。
その休暇を使って、テリィはポニーの家へ向かうことにしていた。
キャンディとの婚約を、ポニー先生とレイン先生へ正式に報告するために。
数日、ポニーの家で過ごし、そのあとテリィだけでシカゴへ向かい、アルバートにも挨拶をする。
2人が結婚するために必要なこと、一つずつきちんと向き合いたい。
机の上には、キャンディから届いた手紙。
その隣には、三つの教会の案内が並んでいる。
テリィはそのうち一冊を手に取った。
自分が一番気に入っている、小さな石造りの教会。
午後になると、柔らかな光が祭壇へ差し込む場所。
キャンディは、どれを選ぶだろう。
テリィは三冊の案内を丁寧に重ね、鞄へしまった。
待つ時間さえ、今のテリィには幸せの一部になっていた。