ホリデーシーズン最大の話題作として期待されるストラスフォード劇団『ロミオとジュリエット』。
SMTで喝采を浴びたテリュース・グレアムと、新進気鋭の若手女優エヴリン・ハートが、舞台の外でも急接近していることが本紙の取材で分かった。
掲載された写真には、深夜、稽古を終え劇場裏口から並んで歩く二人の姿。
女優はテリュースの腕へ自然に手を添え、彼は優しい表情で彼女を見つめているようにも見える。
古くから演劇界では、
「ロミオとジュリエットを演じた俳優は、本当の恋に落ちやすい」
と言われてきた。
実際、ブロードウェイやロンドンでも共演をきっかけに結婚した俳優夫婦は少なくない。
今回も、その新たな一組となるのだろうか。
今後の二人から目が離せない。
写真は、テリィが劇場裏口を出た直後に撮られたものだった。
その少し前まで、二人は歩きながら芝居について話していた。
「ねえ、この場面、ジュリエットならこんなふうに腕を取ると思わない?」
エヴリンがそう言って、芝居の流れでテリィの腕を取った。
「いや、その場面なら――」
テリィが彼女へ顔を向ける。
ほんの数秒。
それだけだった。
エヴリンはすぐに腕を離し、二人はそのまま芝居の話を続けながら歩いていった。
だが、写真に残されたのは、その数秒だけだった。
腕を組むエヴリン。
彼女を見つめるテリィ。
その一枚だけを見れば、まるで恋人同士のようにも見える。
翌朝。
テリィの楽屋へ入ってきたマイケルは、無言で新聞を机へ置いた。
「……テリィ」
「何だ?」
「とりあえず、これを見てくれ」
新聞を開いたテリィは、数秒固まった。
大きな見出しの下に、数日前の自分とエヴリンの写真が載っている。
「……何だ、これは」
マイケルも苦笑する。
「俺も最初は目を疑ったさ」
テリィは記事を最後まで読み、静かに新聞を閉じた。
「もちろん全部、でたらめだ」
「そうだと思ったけど、じゃあこの写真は?」
「芝居の相談をしていただけだ。腕を取られたのも、あの場で一瞬だけだ」
「またかよ、記事が勝手に――」
「ああ、そういうことだ」
テリィはもう一度、新聞へ目を落とした。
怒りよりも、困惑のほうが大きかった。
舞台で恋人同士を演じている。
ただそれだけのことで、なぜここまで話が作られるのか。
「こんなのは、放っておけばいいさ」
テリィは新聞を畳んだ。
「何もないんだから、そのうち消えるだろ」
この時のテリィは、本当にそう思っていた。
一枚の写真から作られた、ありふれた芸能記事。
しばらくすれば、世間も別の話題へ移っていく。
そう考えていた。
だが――
この一枚の記事は、終わりではなかった。
むしろ、始まりだった。