通りを歩いていたキャンディは、ある店の前で立ち止まった。
「あら、占い?」
少し先には長い列ができている。
「すごい人気ね」
けれど、列を見ると二十分、三十分では済みそうにない。
「テリィが終わるまでには戻りたいし……」
そう思って歩き出すと、通りの反対側にも小さな占いの店があった。こちらには客がいない。
「待たなくていいなら、こっちでいいかな」
軽い気持ちでカーテンをくぐった。店の中は昼なのに薄暗く、香が焚かれている。黒いローブをまとった女がゆっくり顔を上げた。
「……来ると思っていた」
キャンディは思わず苦笑した。
(たぶん、みんなにそう言うのよね)
「お願いします」
椅子へ腰掛ける。女はキャンディの手を取り、眉をひそめた。
「これは……」
急に空気が重くなる。
「あなた、大変な運命を背負っている」
「そうなんですか?」
「見える」
女は低い声で囁く。
「黒い影がついている」
キャンディは首をかしげた。
「黒い影?」
「このままでは、パートナーに災いが降りかかる」
キャンディの表情が少しだけ曇る。
「主人に?」
「ええ」
女はゆっくり頷く。
「仕事を失い、大切なものを失い、健康も……害することになる」
そこまで聞いて、キャンディは目をぱちぱちさせた。
「でも主人、昨日も今日も元気でしたけど」
占い師は動じない。
「災いは突然来る」
引き出しを開け、小さな水晶を取り出す。
「災いを除けるには、これが必要」
「特別な水晶?」
「これは魔を払う」
さらに黒い紐に通した石も並べる。
「こちらは夫婦を守る護符。こちらは仕事の成功を守る。こちらは事故除け」
机の上に、次々と並べられていく。キャンディは目を丸くした。
「ずいぶんたくさんあるんですね」
「全部必要だ」
「全部?」
女は真剣な顔で頷いた。
「全部合わせて百ドル」
「えっ?」
キャンディは思わず声を上げた。
百ドル。看護婦の月給にも匹敵する金額だった。
「そんなに?」
「命は金で買えない」
女は静かに言う。
「高いと思うなら、あなたの愛情もその程度ということ」
キャンディはしばらく黙っていた。それからにっこり笑った。
「じゃあ、大丈夫です」
占い師が眉をひそめる。
「何が?」
「主人は、自分の努力でここまで来た人ですから」
キャンディは穏やかな口調で続けた。
「もちろん運もあるでしょうけど。でも私は、お守りより主人を信じます」
女の顔が少し強張る。キャンディはさらに笑った。
「それに、もし百ドルあるなら、子どもたちの施設へ寄付したほうが、きっと運が良くなる気がします」
占い師は言葉を失う。キャンディは椅子から立ち上がった。
「ありがとうございました」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
女が慌てて呼び止める。
「半額でも……」
「いいえ」
「五十ドル!」
「結構です」
「二十ドル!」
キャンディは思わず吹き出した。
「ずいぶん値下がりするんですね」
その一言で、女は口をつぐんだ。キャンディは会釈すると店を出た。外へ出ると、午後の陽射しが眩しい。そのまま歩いていくと、角を曲がった先には長い列。先ほど見かけた人気の占い師だった。
「あっちだったのね」
キャンディは少しだけ振り返る。
「でも……私は占いより、テリィのほうが当たる気がする」
そう呟くと、劇場の方へ歩き出した。