夕食を終えた二人は、リビングでソファに並んで座っていた。
暖炉の火が静かに揺れ、窓の外にはニューヨークの夜景が広がっている。
キャンディは紅茶のカップを両手で包みながら、思い出したように笑った。
「そうそう、今日ね、占いをしてもらったの」
「占い?」
テリィが少し意外そうに眉を上げる。
「街で見つけたの。評判のお店かと思ったら違ったみたい。」
「違った?」
「本物は行列ができてたのに、私は待たなくていいほうへ入っちゃったの」
「……きみらしいな」
テリィが吹き出す。
「でしょう?」
キャンディも笑った。
「でもね、その占い師さん、最初から『ご主人に災いが降りかかる』なんて言い出して」
テリィの眉がぴくりと動く。
「俺に?」
「仕事を失うとか、健康を害するとか……最後は『この水晶が必要』って」
「それで?」
「百ドルの水晶を買ったほうがいいって」
「百ドル?」
テリィは思わず声を上げた。
「そういう商売ということか」
「だよね」
二人は顔を見合わせて笑う。
しばらくして、テリィが穏やかな声で尋ねた。
「それで、きみは何て答えた?」
キャンディは少し考えるように視線を上へ向け、それから静かに口を開いた。
「こう言ったの」
テリィは黙って耳を傾ける。
「『主人は、自分の努力でここまで来た人です。もちろん運もあるでしょうけど。でも私は、お守りより主人を信じます』って」
その瞬間だった。
テリィは言葉を失った。
暖炉の薪が、小さくはぜる音だけが部屋に響く。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
すべてを失ったと思っていた頃の自分には、想像もできなかった言葉だった。
努力を見ていてくれる人がいる。
運ではなく、自分を信じてくれる人がいる。
それが、こんなにも心を満たすものだとは思わなかった。
「……テリィ?」
キャンディが不思議そうに覗き込む。
「どうしたの?」
テリィは小さく笑った。
「いや……」
少しだけ照れくさそうに視線を逸らし、ゆっくり息を吐く。
「そんなこと言われたら」
一度言葉を切る。
「どんな賞をもらうより、うれしい」
キャンディは目を丸くした。
「そんな大げさな」
「大げさじゃない」
テリィは静かに首を振る。
「役者は、才能があるとか、運がいいとか、そういうことはいくらでも言われる」
キャンディは黙って聞いている。
「でも、『努力してここまで来た』って言ってくれたのは、きみだけだ」」
その声は穏やかだったが、どこか震えていた。
キャンディは少し照れながら微笑む。
「だって、本当のことでしょう?」
「……ああ」
テリィは小さく頷く。
「本当だ」
そう言うと、そっとキャンディの手を握った。
その手を包み込むように指を絡める。
「ありがとう」
たった一言だった。
けれど、その一言には、これまで歩んできた道のりと、ようやく手に入れた幸せへの感謝が、静かに込められていた。
キャンディは何も言わず、握り返す。
それだけで十分だった。
暖炉の火は静かに揺れ続ける。
二人の影は寄り添うように壁へ映り、穏やかな夜がゆっくりと更けていった。