二月のシカゴは雪に包まれていた。
前夜10時。テリィはニューヨークを発つ二十世紀特急へ乗り込んだ。
窓の外に流れていく灯りを眺めながらも、頭の中にあるのは一つだけだった。
手紙を交わしてきた数ヶ月。便箋の上では何度も会っていた。
けれど実際に顔を見るのは、あの日ニューヨークの駅で別れて以来だった。
翌朝、列車は定刻通り、午前11時シカゴへ到着した。
本来ならキャンディの列車は午後1時到着予定だった。
だが、到着してすぐに確認した案内板には無情な文字が表示されていた。
“雪の影響による遅延。到着予定時刻未定”
テリィは小さく息を吐いた。腹立たしさはなかった。むしろ苦笑してしまう。
どうしてだろう。キャンディとの再会には、いつも何かが起きる。
そして今回は、ようやく会えると思ったら雪で足止めを食らう。
「まったく……」
思わず笑う。
「退屈させないな、きみは」
もちろん返事はない。キャンディはまだ列車の中なのだから。
それでも、その名を口にするだけで胸が温かくなった。
だが、待つ時間は想像以上に長かった。喫茶店へ入ってコーヒーを頼む。けれど味がしない。新聞を広げるも一行も頭に入らず、時計ばかり見てしまう。
結局ホームの近くへ戻り、案内板を見上げ、また時計を見る。そして再び案内板を見る。
我ながら情けないと思った。
何千人もの観客の前に立つ時より緊張している。
午後2時。ようやく到着予定時刻が表示された。
“午後2時10分” その数字を見た瞬間、胸が高鳴る。
あと少し、本当にあと少しだ。
一方その頃、雪に遅れながら走る列車の中で、キャンディもまた落ち着かなかった。
窓の外を流れる白い景色、止まりそうになる速度。
何度も繰り返される遅延の案内。
もどかしい。早く会いたい。その気持ちだけが募っていく。
手袋越しに鞄を握る。中にはテリィから届いた手紙が入っていた。
何度も読んだ。けれど今日ばかりは文字では足りなかった。
顔が見たい、声が聞きたい、触れたい。ただそれだけだった。
やがて遠くにシカゴの街並みが見え始める。
キャンディは自然と立ち上がっていた。
胸が苦しいほど高鳴っている。
そして列車はゆっくりとホームへ滑り込んだ。
白い蒸気が舞い上がる。車輪が軋み、乗客たちが立ち上がる。
ドアが開くとキャンディは人の流れに混じってホームへ降り立った。
冷たい空気が頬を撫でる。けれど寒さなど感じなかった。
その時だった。
人混みの向こうに見覚えのある姿があった。
黒いコートに長い脚。少し癖のある栗色の髪。そして青灰色の瞳はテリィだ。
キャンディの息が止まる。
その瞬間、テリィもまたキャンディを見つけていた。
金色の髪、何度も夢に見た笑顔。
会いたくてたまらなかった人。
視線がぶつかる。世界から音が消えた気がした。
ただ互いだけが見えていた。
そして次の瞬間、二人は同時に駆け出していた。
考えるより先に身体が動く。
キャンディが走る。テリィも走る。
人波を縫うように荷物を避けながら。
あと少し、あと数歩、距離がみるみる縮まっていく。
そして。
「テリィ!」
キャンディが呼ぶ。
「キャンディ!」
テリィも呼ぶ。
ほとんど同時だった。
次の瞬間、テリィはキャンディを抱きしめていた。
勢いのままに。何ヶ月も会いたくてたまらなかった人を、強く、けれど壊れ物を抱くように優しく。
キャンディもまたテリィのコートを握りしめる。
温かい。本当にいる。夢じゃない。
抱きしめられた腕の力。胸の鼓動。
全部が本物だった。
「やっと……」
キャンディの声が震える。
テリィは目を閉じた。
腕の中の温もりを確かめるように。
「やっと会えたな」
その言葉にキャンディは頷く。
声にならなかった。込み上げるものが多すぎた。
駅のホーム。人々が行き交う場所。
長い遠回りの果てに辿り着いた再会だった。
ようやく少しだけ身体を離したテリィは、改めてキャンディを見つめた。
変わらない笑顔。けれど以前より少し大人びた表情。
そして自分を見つめる瞳。その全てが愛しかった。
「会いたかった」
今度はテリィが言った。
キャンディは涙を滲ませながら笑う。
「私も」
それだけで十分だった。
ようやく始まる、束の間の再会が。